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分子標的療法(2009年12月8日掲載)

向山 秀樹・南部徳洲会病院

腎がんの新しい治療法

以前、当コラムにおいて腎がんについて書かせていただきました。かれこれ5年前のことです。その際、腎がんは通常がん治療に用いられる放射線や抗がん剤の効果がないために、手術療法以外確実な治療方法がなく、手術ができない症例には効果不十分ながら免疫療法が行われていると書きましたが、昨年より分子標的療法という、これまでなかった薬が導入され、特に病状が進行した腎がんに対して新たな治療方法となりました。ですからその治療方法を含めて、この分子標的療法について簡単に説明させていただきます。

1962年ワトソン博士とクリック博士が遺伝子の二重螺旋(らせん)構造を発表してノーベル賞を受賞し、分子生物学の幕開けとなりました。それ以降、遺伝子研究および遺伝子を用いた研究がすすみ、2001年には人間の全遺伝子情報が解読され、「サイエンス」「ネイチャー」という米英の著名な科学雑誌に掲載されました。これらの遺伝子の解明と、その解析方法が人間の病気の治療にも応用されるようになってきたのです。特にがんは基本的には遺伝子の変異が原因として発症する場合がほとんどです。分子生物学の研究者は、これまで試験管やネズミ等で研究してきたことを臨床応用つまり医療に直接貢献させてきたともいえると思います。

そのため各種のがん治療において、最近まったく新しい薬が使われるようになってきました。腎がんについても同様でVEGF(vascular endothelial growth factor)阻害薬という新しい薬(分子標的薬)が一般的に使用可能になりました。同薬は既存の治療薬に比べて治療効果が高く、手術ができない症例、手術はしたもののすべてのがんを取り除くことができなかった症例、また手術はしたものの再発してしまった症例など、いわゆるがんが進行した患者にあらたな治療の道が開けました。さらに同薬は内服薬ですので外来通院でも治療は可能です。

ただし、どのような薬についてもいえることではありますが、その薬独特の副作用がありますし、値段も高い、治療効果も100%ではありません。このような問題点もありもろ手を挙げての歓迎とまではいきませんが、患者およびその家族さらにがん治療に携わる医療従事者にとって朗報といえるでしょう。

分子生物学を利用した治療は今後、続々と登場してくる予定です。また分子標的薬は単独で使用されるだけではなく、既存の抗がん剤や免疫治療などと組み合わされた治療方法も、その治療成績を含めて内外から発表されています。さらなる医学の発展に期待したいものです。