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がん免疫療法(2009年12月1日掲載)

照屋 剛・豊見城中央病院

人が元来もつ力を利用

日本における死亡の原因疾患の第1位はがんです。身体の正常細胞がさまざまな原因でがん細胞となり、やがて全身へ広がり、身体の機能を破壊します。がんが全身病とされるゆえんであります。身体のある部分にがんが留まっていれば手術や放射線が有効な治療法ですが、全身に広がったがん細胞には別の治療法が必要で、その際に有効なのが化学療法や免疫療法です。

化学療法は抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を破壊する方法です。ただ、吐き気や脱毛・アレルギー反応等の副作用を引き起こすことがあり、大なり小なりと身体へダメージを与えます。抗がん剤に耐えうる身体の良好な状態が必要です。そこで注目されるのが人間が元来もつ免疫力です。

人間には体調を良好に保つため白血球(顆粒(かりゅう)球やリンパ球)などの免疫細胞が活躍する免疫と言われる働きがあり、大きく二つに分かれます。一つは生まれつき持っている自然免疫で、体外から入り込む細菌や風邪などのウイルス等を破壊・除去し治す力です。もう一つは獲得免疫で、成長過程で身体が獲得し、細菌やウイルスを破壊・除去する力です。免疫はがんの発生や広がりともかかわりがあり、免疫不全状態ではがんが発生しやすいことが分かっています。自然および獲得免疫を効率良く組み合わせることでがん細胞の治療に応用するのががん免疫療法です。

がん免疫療法の自然免疫力を高めて利用するのが非特異的がん免疫療法です。体内の貪食(どんしょく)細胞やNK細胞・好中球等ががん細胞を破壊・除去する力を利用し、活性リンパ球(LAK)療法・NK細胞療法・BRM(免疫賦活)療法等がありますが、がん細胞への効果が一定でなく不十分なこともあります。一方の獲得免疫としての特異的がん免疫療法(樹状細胞がんワクチン療法等)は、がん細胞のみを破壊する細胞や抗体等をつくり出し身体に投与したり、このような細胞や抗体が体内で持続的に作り出すよう工夫した治療法です。

しかしがん免疫療法はすべてのがん患者さんに有効でなく、まだがんの標準治療法ではありません。また治療においては保険適応とならない薬剤もあります。健康食品の中には、このような免疫を高めるとされる成分を用いてがん治療に有効とするものがありますが、根拠となる正確なデータがなかったり、予期せぬ副作用があったりしますのでよく考え使用すべきだと思います。

がん治療は全身病として認識し身体機能を損なわないように、手術療法・放射線療法・化学療法・免疫療法をうまく組み合わせて治療にあたることが大切です。