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急性虫垂炎(2009年11月3日掲載)

比嘉 宇郎・那覇市立病院

早期は切らずに治療も

みぞおちの痛み、吐き気や発熱に続いて右の下腹が痛くなって我慢できなくなり、病院を受診したら手術が必要だと言われ、「もうちょう」を切ったら良くなった、という経験をした方や聞いたことのある方はいらっしゃるでしょう。一般に「もうちょうにかかった」とか「もうちょうを切った」という話にでてくる「もうちょう」とは、多くの場合、医学的には虫垂という臓器または虫垂炎という病気のことを指しています。

盲腸は小腸に続く大腸の始めの部位を指し、その盲腸の下部から突出したミミズのような細長い臓器が虫垂です。虫垂の炎症を虫垂炎と呼びますが、かつてその病態が十分に分かっていなかった時代には、虫垂の炎症が盲腸に波及したころ(続発性の盲腸炎ということになります)に手術され、あたかも盲腸の疾患であるかのように誤認されていた経緯があり、「もうちょう(炎)」という言い方が残っているようです。

虫垂炎の原因は、十分に解明されているとは言えませんが、多くは異物、糞便(ふんべん)、腫瘍(しゅよう)などにより虫垂の内腔(ないくう)がつまり、腸内の細菌が虫垂壁に侵入して感染を起こすことによると考えられています。

初めに述べたような症状が虫垂炎では典型的ですが、症状には個人差があります。症状や経過から虫垂炎を疑うと、腹部診察で右下腹を押したり緩めたりしたときの痛みの有無などや、血液検査で炎症所見の有無などを確認します。ただし、結腸憩室炎や女性では卵巣や卵管などの疾患でも右下腹部に似たような痛みを生じるため、それらを鑑別するために腹部超音波検査やコンピューター断層撮影(CT)検査を行います。

超音波やCTで腫れ上がった虫垂が確認され、痛む部位と一致すれば診断はほぼ確定するわけですが、実際には正確な診断が難しいことも多く、あらゆる情報を総合的に判断した結果、最も可能性が高い疾患として診断されることもあります。

以前は、虫垂炎と診断されれば手術するのが当たり前とされていましたが、画像診断の進歩などもあり炎症の早期に診断される症例が多くなると、手術をせずに絶飲食、輸液、抗生物質投与による保存的治療が選択されることも多くなりました。しかし、ある程度炎症が進んだ段階では手術を選択せざるを得ず、現在でも治療の基本は外科的切除であることに変わりはありません。

また、保存的治療で良くなった場合でも、後に炎症が再発する可能性はあるので、初回、再発時のいずれの場合も治療法について主治医と十分相談してください。