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癒やしの島の幻想?(2009年9月29日掲載)

與那覇 博康・県立八重山病院

風土理解し溶け込もう

近年、よく癒やし≠ニいうことがテーマになり、沖縄もそのブームの一環として取りざたされています。

青い海と空、暖かい気候、豊かな自然と人々の情の厚さ、そういう八重山に憧(あこが)れをいだいて本土から多くの方が移住されてきます。

私はそのことが、悪いとか嘘(うそ)とか言うつもりはありませんが、はたしてそれだけで真に癒やしが得られるでしょうか?

確かに青い海と空と輝く太陽は、疲れた人のこころに開放感とエネルギーを与えてくれます。一般的に、人は旅に出ると非日常を味わうことで普段の疲れから解放されるものです。旅行の感覚でいられる間、人は非日常的な環境に魅了され何かと心ときめくものです。

しかし、いざ住むとなると話は別です。その時非日常は日常に、赤の他人は顔見知りの隣人に変わるのです。

島には島の伝統があり、人々の暮らしがあり土地の、または固有のルールがあります。その中には、島人には常識でも本土からきた方には非常識に見えることがあります。島は本土に比べ社会が小さいので人間関係はより濃厚なものになりますし、単純に良い、悪いとか、正しい、間違っているとかの問題で片付けられないこともあります。

したがって、島の住人になると、必然的にあらたな環境の変化にさらされることになります。

そうなると、やはり重要なのはその人の心のあり方になるのです。癒やしを求めて移住される方は、環境を変えることも可能でしょうが、やはり最終的には自分自身が変わらなければいけないのです。

よく雑誌やテレビで見ただけで、一度も沖縄で暮らしたことがない方が移住されてきますが、いざ住んでみると「暑さには耐えられないし、台風は怖いし、食べ物もあわない。やたらと生活に干渉されてプライバシーがない」ということで体調を崩されて、どうにもこうにもならなくて結局、故郷に帰られた方もいらっしゃいます。

どこであれ自分が生まれ育った環境と違う場所で生活するのは並大抵なことではありません。その土地の風土、自然、人情を理解して、最終的には自分をそこに合わせて変えていかなくてはなりません。

もちろんそうするには時間と努力が必要です。

島の暮らしを理解し島の人々の中にとけ込めた時に、本当の癒やしと新たなる自分が誕生する喜びが生まれます。そうやってみんなが幸せになってほしいと私は常日ごろ考えています。