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母指狭窄性腱鞘炎(2009年8月4日掲載)

渡慶次 学・ハートライフ病院

携帯メール操作で発症も

手首が痛くて整形外科を受診する患者さんは少なくありません。痛みの原因はさまざまで、脳→脊髄→末梢神経→手といった神経経路に異常があると生じる痛み、骨や軟骨損傷による痛み、筋肉や腱の炎症による痛み等が挙げられます。神経経路の異常はしびれや知覚障害を合併していることが多く、脊髄や脊髄から枝分かれした神経根の圧迫(頚椎脊髄疾患)、末梢神経の圧迫(末梢神経絞扼障害)等が考えられ、しびれの領域や神経伝導速度測定およびX線・MRI(磁気共鳴画像装置)検査により障害部位を診断します。骨や軟骨損傷は、疼痛部位を中心にX線・CT(コンピューター断層撮影)・MRI検査等を行い診断します。

今回は、腱の炎症の中で日常診療上比較的多い母指狭窄性腱鞘炎についてお話しします。親指(母指)には指を伸ばす働きをする腱(短母指伸筋腱)、指を広げる働きをする腱(長母指伸筋腱)、指を曲げる働きをする腱がついていますが、短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が手首の母指側にある腱鞘というトンネルの中を通っています(図)。母指狭窄性腱鞘炎は短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が手首にある腱鞘で狭窄されておこる疾患で、腱鞘の部分で腱の動きが悪くなり炎症が生じると手首の痛みや腫れが出現してきます。1895年スイスの外科医ドケルバンにより報告され、ドケルバン病とも呼ばれています。

病因はスポーツ、コンピューター操作等による母指の過度使用、妊娠(ホルモンバランスとの関連)、透析(長期の血液透析により生じる腱や腱鞘へのアミロイド沈着)等いろいろありますが、最近は携帯メール、ゲームの過度操作による発症が増加しているそうです(私も昔、一秒間に何連打も操作するゲームにはまって痛めました)。

診断は母指を伸ばすと手首に出現する痛みやフィンケルシュタインテスト(診察者が母指ごと、手首を小指側に曲げると痛みが増強する)などで総合的に判断します。

治療は軽症例では薬物療法(鎮痛剤内服・外用薬)、局所の安静(日常生活で母指の使用制限、装具・副子による固定)、腱鞘内注射(局所麻酔剤・ステロイド注射)といった保存的治療を行いますが重症例では手術(腱鞘を切離し、腱の狭窄を取り除く腱鞘切開術)が必要になることもあります。類似した症状で軟骨が障害(変形性関節症)されていることもあり、的確な検査による診断が必要となるため手首の痛みがある方は早めに整形外科を受診し適切な治療を受けてください。