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咽喉頭異常感症(2009年6月30日掲載)

知念 信雄・知念耳鼻咽喉科

のどにつかえる違和感

ある日ふと気づくと、のどに何かできているような気がする。食事をする時は何ともないが、唾液を飲み込む時につかえる感じがする。忙しい時は気にならないが、暇になると症状が出てくる。これはもしかしてがんではあるまいか。そう考えるとますます症状が強くなり、夜も眠れなくなる。あれこれ思い悩んだあげく、意を決して耳鼻咽喉科を受診。何でもないと言われ、ほっとする。安心したらいつのまにか症状も消えてしまった。あるいは何でもないと言われたものの、余計不安になり、他の病院を渡り歩いた―こんな経験はありませんか。

「胃から球のようなものが上昇して、咽喉部につまるような感じ」を、古代ギリシャではヒステリー球と呼び、子宮が体内を動き回ることによるものと考えました。また「咽喉部に肉片のようなものがつかえて、これを飲み込もうとしても下がらず、吐き出そうとしても出ない状態」を東洋医学では咽中炙臠と称します。このように咽喉頭部に生じる異常感覚は古くから注目されていますが、現代の日常診療でもよく見られる症状のひとつで、「咽喉頭に異常を訴えるが、通常の耳鼻咽喉科的視診では訴えに見合うような器質的病変を局所に認めないもの」は、咽喉頭異常感症と呼ばれています。

咽喉頭異常感症の原因は多岐にわたりますが、局所的原因としてのどの炎症や腫瘍、全身的原因として貧血や自律神経失調症、精神的原因としてがん不安やうつ病などがあげられます。これらの原因が単独ではなく、複数がからみ合って複雑な病像を呈していることも考えられます。

これらの原因のなかで一番問題になるのは、やはり咽頭がんや喉頭がんなどの悪性腫瘍の存在です。咽喉頭異常感症患者の1%前後に悪性腫瘍が含まれるとされており、決して頻度は高くはありませんが、注意が必要です。冒頭に述べたように唾液を飲み込む時にだけ症状が出現する場合はまず心配無用と思われますが、逆に固形物が飲み込みにくい場合は危険信号と言えます。また、近年は胃液の逆流がのどの炎症の原因となる咽喉頭酸逆流症が注目されており、就寝前に飲み食いする習慣のある人は要注意と言えるでしょう。

案ずるよりは産むがやすし。この記事を読んでも症状が改善しない方は近くの耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。また、下咽頭がんのように早期診断が困難な疾患もありますので、経過観察を勧められた場合は、症状が消失するまでは通院してみることも必要です。