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動脈硬化性血管病(2009年6月23日掲載)

久貝 忠男・沖縄県立南部医療センター・こども医療センター

ステント治療は負担少

人間は生きるため酸素と栄養を血液によって全身に供給しなくてはなりません。この血液を運ぶ管が動脈です。水道管が家中に配管されているように、動脈は「ライフライン」として全身の隅々まで張り巡らされています。また、水道管が年とともに錆びるように、動脈も歳とともに硬くなり、血管循環に支障をきたすようになります。動脈硬化は血管の老化現象であり、まさに「人は動脈とともに老いる」のです。

喫煙、高血圧、糖尿病、肥満などの生活の悪習は「血管の老化」を加速します。ついには、動脈は狭く(狭窄、閉塞)になり、または膨張(瘤化)して、「ライフライン」としての機能を失い、臓器の機能はストップします。生活習慣の改善が最も有用ですが、老化は食い止めることはできません。

狭くなった血管には「迂回する道、バイパス」を作り、膨張した血管はそれを?取り除いて新しい道を作って?治療します。従来手術しか治す方法はありませんでしたが、手術は侵襲的であるため、体に負担の少ない方法が工夫されてきました。1977年に狭い血管をカテーテルで広げるいわゆる「風船治療」が開発され、狭心症や足の痛みから解放されるようになりました。今では内科的治療も手術に匹敵するまでに進歩しています。

一方、91年には腹部の膨張した血管(動脈瘤)にステントグラフトがはじめて応用されました。動脈瘤は症状がないのが特徴で、突然破裂し、死に至ります。偶然発見される場合が多く、検査をしなければ発見されません。動脈瘤破裂は外科治療が向上した今日でも救命することが困難です。

当医療センターでは今年に入って離島搬送も含め4例の腹部大動脈瘤破裂の手術を行いました。幸い全員を救命し、退院させることができましたが、その都度、破裂前ならより簡単に治療できるという切なる想いがあります。ステントグラフト内挿術は手術に比べ、比較ならないほどに低侵襲、低医療費です。ご高齢や体の弱い方にも可能です。ただし、すべての方にこの治療方法ができるわけではなく、現実には多くの疾患に手術が必要です。

医療の発展は日進月歩です。従来は大手術を必要とした動脈硬化性血管病も身体にやさしいカテーテルを駆使した種々の血管内治療が可能な時代となってきました。