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ピロリ菌(2009年4月28日掲載)

清水 健・しみず内科胃腸科21

胃がんとの関連性指摘も

1983年、オーストラリアの学者ウォレンとマーシャルがヒトの胃から、らせん状の菌を培養することに成功しました。これがヘリコバクター・ピロリ、今話題のピロリ菌です。

従来胃の中は胃液に含まれる塩酸によって強い酸性になるため、細菌は生息できないと考えられていました。

ピロリ菌は特殊な酵素(ウレアーゼ)をつくることによって周囲の胃粘膜を中性へと変化させ、自らすみやすい環境にかえることができます。また、ピロリ菌は胃の粘膜を傷つける物質をつくり、その結果菌が繁殖した胃は慢性胃炎をおこし、さらに胃潰瘍や十二指腸潰瘍が生じることも分かりました。

どのようにピロリ菌に感染するかははっきり分かっていませんが、発展途上国に多いこと、日本人では60歳以上の約8割にピロリ菌がすんでいるという事実から、原因として劣悪な生活環境による感染という説が有力です。

次にピロリ菌の治療ですが、昨今胃・十二指腸潰瘍を患った患者さんに対しては除菌治療(ピロリ菌を胃の中から消滅させる治療)が広く行われています。

まず内視鏡検査、採血検査、呼気検査、便検査などの方法で胃の中にピロリ菌がいることを確認したのち、1週間3種類の飲み薬(潰瘍をなおす薬を1種類、菌をやっつける薬を2種類)を内服して治療を行います。副作用も重大なものは少なく、飲む期間も短いため比較的安心して治療ができます。

ピロリ菌に関して最近の話題は、イギリスの医学専門誌ランセット(The Lancet)に北海道大学内科、浅香正博教授のグループが、患者さんのピロリ菌を除菌することで胃がんの再発が約3割に減ると発表したことです。

この報告によってピロリ菌はわれわれの胃の中にすみ着き、潰瘍だけでなくさらに胃がんにまで関係していることが証明されました。そのあまりの「悪者」ぶりに、今年1月、日本ヘリコバクター学会から「胃がんの予防のため胃・十二指腸潰瘍患者以外でもピロリ菌の保菌者は除菌することを勧める」という指針が発表されました。

現在保険診療ではピロリ菌の検査および治療は胃・十二指腸潰瘍の患者さんに限られているため、多くのピロリ菌陽性で慢性胃炎に陥っている患者さんは自由診療で治療せざるをえない状況です。

同学会は、ピロリ菌の除菌治療に対する保険適用を拡大するよう、厚生労働省に対して要望を行っていくとのことですが、今後この問題に関してはもう少し推移を見守っていく必要があります。