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月下の命にともしびを(2009年3月24日掲載)

小濱 正博・北部地区医師会病院

夜のヘリ搬送 北部でも

 昨今、内地の救急病院での患者の受け入れに関する問題を耳にするとき、沖縄県の住民は幸せだなあと感じる。というのもどのような離島であっても有人離島の多くが、県立や村立の診療所を備え、医師が配置されている。急患発生の場合には必ず医師が診てくれ、重症では昼間はドクターヘリ、夜間でも自衛隊や海上保安庁のヘリや固定翼により最適な治療が可能な本島の病院へ搬送を可能にしている。

 これは、救急病床や当直医の不足から電話で受け入れ拒否を余儀なくされる他府県の現状を考えれば、沖縄県が誇る素晴らしいシステムである。救急隊員たちが悩みながら搬送した患者の状態は、横づけにした救急車の中でも診ることができるはずである。まずは患者を診ることが医療の基本ではないだろうか。

 たとえ、その後患者さんの容態が急変してもご家族は納得されるはずである。私も都会で救急医療に従事した経験があるが、週末の大都会は本当に医療過疎地域であると感じたものだった。

 しかしである、こんな沖縄にも問題が残されている。確かに離島の人は夜間でもヘリ搬送で、最適な救急病院へ搬送される。だが、本島北部やんばるの人々はまさに週末の大都会と同じである。夜間には国頭、東村や名護の東海岸からは1、2時間は当たり前のように搬送時間を要する。最悪3時間を要することもある。しかし、彼らは行政のヘリ支援を要請するシステムを確立していないのである。

 救助に従事する自衛隊の友人とこの話をしたときに、彼は災害派遣の要請があれば本島でも夜間のヘリによる急患搬送は可能であると言った。ということは救急ヘリが離着陸できるヘリポートさえあれば北部も夜間にヘリ搬送が可能となり、名護、中南部の病院へいち早く搬送が可能となる。

 本部、今帰仁、国頭、東や大宜味の住民のためにヘリポートを造ることがそんなに難しいことだろうか。夜間照明を付設したわずか22メートル四方の土地が確保できないはずがない。また、北部観光の基盤となる一般観光客、スポーツ合宿、エコツーリズムそして体験学習の子供たちの安全を確保する意味でも夜間の急患搬送体制を整えることは、沖縄観光にとっても大切なことではないだろうか。

 人の命を救うということは、大仰に構える必要はない。やるべきことを皆で取り組めばできるのである。「恐れず、侮らず、気負わず」、私が尊敬する方の言葉である。幼い子供でも倒れた友を抱き起こそうとする。われわれ大人が人を救えないはずがないのである。国も政治も宗教も超えてあるもの、それが命だと私は思う。