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痛みに合わせ適切に投薬(2009年1月21日掲載)

笹良 剛史・南部病院

緩和ケア

緒形拳の遺作として話題になった「風のガーデン」というドラマがありました。末期がんの主人公の医師が、家族との絆を取り戻す話の中で、苦痛を緩和する「緩和ケア」の技が数多く盛り込まれていましたのでお話しします。

がんの痛みに対して、世界保健機関(WHO)の指針に従った治療が行われます。指針では、痛みの弱い段階から非麻薬性の鎮痛薬を用い強くなってきた場合にはモルヒネを中心とした麻薬性(オピオイド系)鎮痛薬を定期的に用います。痛みの程度にあった薬を適切に使用することによって、約八割の患者さんが痛みをほとんど感じることなく日常生活が可能となります。

ドラマで主人公が使っていたのは麻薬性鎮痛薬のフェンタニールの張り薬です。便秘などの副作用が少なく、がん治療に広く用いられています。ただ急に強さが変化する痛み(突出痛)には対応できない弱点もあり、「レスキュー」といわれる即効性の麻薬性鎮痛薬を必ず一緒に出してもらう必要があります。

鎮痛薬をもらう時にはレスキューの処方と説明を主治医から受けてください。薬を飲めない患者さんには他に持続モルヒネ皮下注射という方法もあり、在宅でも可能です。

WHO方式でも約一割の方の痛みは十分にとれません。薬以外では痛みを脳に伝える神経の伝達をブロックし、痛みを感じなくさせる神経ブロックという治療法があります。神経ブロックには注射で神経周辺に直接薬を注入する方法と電気熱凝固法があります。

ドラマの主人公は腹腔神経叢ブロックという治療を受けました。すい臓の後ろにある腹腔神経叢の付近に薬を注入する治療法で、すい臓、胆管、胃がんなど内臓に広がったがんの鎮痛に効果を発揮します。くも膜下フェノールブロックは痛みを感ずる脊髄神経の入っているくも膜の下に薬を注入する治療法で、肋骨の神経の痛みや直腸がん再発の臀部の痛みなどに効果を発揮します。硬膜外ブロックは脊髄の回りにある空間に薬を注入する治療法で、脊髄が支配する領域の鎮痛に効果があります。

さらに難治性の痛みの場合にはくも膜下腔に植え込み型のカテーテルを体内に留置し、持続的にモルヒネを流す「持続くも膜下モルヒネ鎮痛法」が、有効な方法として試みられています。この方法では静脈内投与量の百分の一という非常に少量のモルヒネにて鎮痛が得られます。

また、動くと痛い脊椎の骨転移の痛みには放射線や骨セメント注入療法も有効です。がんの痛みでお困りの方は病院の緩和ケアチームやペインクリニック専門医にご相談ください。