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嚥下障害(2009年1月7日掲載)

岩田 剛・南部病院

咳止めの長期服用に注意

長引く咳で何カ月も風邪薬を飲んでいる方を時々見かけます。繰り返す咳は本当につらいものですが、原因によっては咳止めが逆効果な場合もあります。長引く咳の原因として、喘息などの呼吸器疾患、蓄膿症などの耳鼻科系の疾患、胃酸がのどまで上がる胃食道逆流症などもありますが、今回お話する嚥下障害(飲み込みの障害)も長引く咳の原因になります。

人間ののどは、食べ物の通り道と空気の通り道が交差しています。普段呼吸や会話をしているときは空気の通り道が開いています。食べ物がのどを通るときは空気の通り道が狭くなり食べ物の通り道が開きます。空気の通り道に間違って食べ物が入ると咳反射が起きます。人間の肺には食べ物が入らないようになっており、窒息や重症な肺炎を防いでくれています。

嚥下が障害されると、食事中に食べ物が肺に入りやすくなります。それだけでなく、知らないうちに食べ物がのどに残っていることもあり、残った食べ物は食事の後や臥床したときの咳を引き起こします。また、口の中の唾液は一日一―一・五リットル分泌されており、嚥下が障害されると肺に唾液が流れ込み、普段から咳や痰が増える原因にもなります。のどの感覚が弱くなると、気が付かずに肺に食べ物や唾液が流れている事もあり、咳がなくても繰り返す肺炎の原因になります。

食事中にむせる、食事中に声の質が変わる、食後に(特に横になると)咳や痰が出る、肺炎を繰り返すなどは代表的な嚥下障害の兆候です。ほかに、食欲不振、食事中の疲労、食事時間の延長(三十分以上)、体重減少、硬いものを残す、汁物を取らなくなる、パサパサした物が飲み込めない、食べ物が口からこぼれる、声のかすれ、咳による夜間不眠なども、嚥下障害を疑うポイントになります。

嚥下障害を評価する検査もあります。嚥下内視鏡検査は鼻から内視鏡を入れて食事中ののどを観察します。嚥下造影検査はエックス線透視の機械の前でバリウムの入った食事を食べていただき、食事の流れを確認します。どの部分で、どういった食事形態で食事の流れが悪くなっているのかを知ることができます。

咳止めのお薬はのどの反射を抑える作用があり、嚥下障害のある方では肺炎の危険性を増やすことになるので、安易に長期服用されることは好ましくありません。それから、一番大切なことは嚥下障害の原因となった疾患をしっかり治療・予防してゆくことです。前述した症状に当てはまるものがあれば、ぜひ一度医師にご相談することをおすすめします。