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たこつぼ心筋障害(2008年12月24日掲載)

上地 洋一・牧港中央病院

精神的ストレスが原因

失恋の痛手を英語で「ブロークン・ハート」と言ったりしますが、みなさんは精神的につらい目に遭い、胸が痛くなったり苦しくなったりしたことはありませんか? 悲しみのあまりショックで死んでしまった、などといううそのような本当の話も世の中にはあるようです。

実は精神的なストレスをきっかけにして心臓の動きが悪くなり、極端な例では亡くなられてしまう病気があります。それは「たこつぼ心筋障害」というものです。ユニークな名前の心臓病ですが、動かなくなった心臓がまるでたこつぼのような奇妙な形をしているために名付けられました。

心筋梗塞と間違えられることも多く、病気の仕組みはまだはっきりしていません。みなさんにはなじみがないと思われますので私が経験した患者さんについてお話しします。

Aさんは四十歳代の女性で夜中に胸と背中の軽い痛みがあり受診されました。たまたま当直をしていた私は、診察をしてとりあえず心電図をとってみました。結果に目立った異常はありません。帰っていただこうと思ったのですがだんなさんが心配そうです。そこで超音波検査をやってみることにしました。

するとどうでしょう、予想に反して心臓が一部分しか動いていません! ひょっとして心筋梗塞?ということで、緊急で詳しい検査を行いました。ところが心筋梗塞なら詰まっているはずの血管が全く異常ないのです。心臓の動きを再確認しましたがやはり大部分は動いていません。しかも奇妙な形です。「あっ!たこつぼだ!」。これが私の患者さん第一号でした。結局、Aさんには特別な治療は行いませんでしたが、心臓の動きは次第に元に戻り、症状も悪化することなく退院しました。

このようにたこつぼ心筋障害を生じた患者さんの心臓は、自然に回復することが多く、症状が軽ければ心配はいらない病気といえます。ただし、Aさんの場合はきっかけとなる精神的なストレスがなく、しかも心電図の異常がでてくる前に見つかった珍しいケースでした。

その後も何人かの患者さんを治療し、中には重症の方もおられましたが、幸いどなたも回復されました。症状が軽いために病院を受診しなかったり、あるいは初期に検査を受けなかったりして見過ごされている患者さんも多いと思われます。

みなさん、心配事で胸がキュンと痛むのは気のせいかもしれません。でも、ひょっとするとその時心臓はたこつぼ型をしているかもしれませんね。