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母乳の不思議(2008年12月3日掲載)

大庭 千明・県立南部医療センター・こども医療センター

絆深めて楽しい育児を

人のおっぱいは左右二つあります。お母さんはわが子に両方のおっぱいを飲ませます。双子のお母さんは二人を同時に授乳させることができます。それでは三つ子のお母さんのおっぱいはいくつでしょう?

母乳をあげる哺乳類の犬や猫は普通八つのおっぱい、豚は十四ものおっぱいを持っています。一回のお産でおっぱいの数より少ない子を産むのが普通です。どの子にもおっぱいが一つは当たるようにできているのです。

みなさんは哺乳類で一番甘い母乳を知ってますか? 実は人の母乳は乳糖濃度が高く一番甘いのです。トナカイやオットセイの母乳は脂肪が多いため厚い脂肪層をつくり赤ちゃんを寒さから守ります。ウサギの母乳はタンパク質が多いため赤ちゃんの成長が早く生後六日で体重が倍になります。母乳って不思議ですね。

出産したお母さんの多くは母乳で育てたいと思っており母乳育児が見直されるようになってきました。お母さんがわが子を抱っこして見つめて母乳をあげることで母子の絆が強まります。初乳と呼ばれる生後数日の母乳は免疫物質が含まれており赤ちゃんを感染症から守ります。また母乳栄養の子は人工ミルク栄養の子と比べて乳児突然死症候群が少なく知能発達がよいことが知られています。将来の生活習慣病の予防効果もあり注目されています。母乳ってすごいですね。

私の働く新生児集中治療室(NICU)での母乳の話をしましょう。未熟児を産んだお母さんは元気に産んであげられなくてごめんね、と自分を責めたり、入院しているわが子が心配というストレスで母乳が出にくいことがあります。

普通の赤ちゃんを産んだお母さんの母乳と比べて、未熟児を産んだお母さんの母乳は未熟なわが子がより大きく成長するようにタンパク質や脂肪が多く含まれておりカロリーが高いのです。また脂肪が小さく吸収しやすくなっています。お母さんは自然にわが子に一番適した母乳を出すようにできているなんて不思議ですね。

未熟児にとっての母乳は成長に必要な栄養摂取のみならず、感染予防・腸管合併症予防など、どんな治療薬よりすごい力を発揮します。おいしそうにおっぱいを飲む子と幸せそうにほほ笑むお母さんの姿は心が温まるものですね。

初めの質問ですが三つ子のお母さんのおっぱいも二つしかありません。三つ目のおっぱいの役割としてお父さんや周りの人が協力してみんな一緒に楽しんで育児を行ってくことが大切です。社会全体で楽しむ子育てを支援していくことが一番大切だと思います。