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鼠径ヘルニア(2008年10月29日掲載)

深町 俊之・南部徳洲会病院

自然治癒なく手術必要

外来で「ヘルニアですね」と患者さんに説明すると、「腰が悪いんですか?」と言われます。ヘルニアという病名は一般的に腰椎椎間板ヘルニア(腰椎の軟骨が飛び出て神経を圧迫して起こる腰痛や下肢の神経障害)として市民権を得ているようです。

ヘルニア(herniation)というのは日本語で飛び出る、脱出するといった意味です。医学的疾患には臓器がその本来存在する場所から?飛び出る?状態となるさまざまな病態があり、種々の○○ヘルニアという疾患名が存在します。その中でもわれわれ外科医が専門的に診療するのは腹部に発生するヘルニアで、飛び出る臓器は小腸が多く?脱腸?と呼ばれるたぐいのものです。

腹部に起きるヘルニアにも手術後の創部に生じる腹壁瘢痕ヘルニア、臍ヘルニア、外観上は異常を呈しない閉鎖孔ヘルニアなど、種々のヘルニアと呼ばれる疾患が存在しますが、その一つに鼠径ヘルニアがあります。

鼠径ヘルニアは腹部のヘルニアの八ー九割を占め、またの付け根の部分(鼠径部)から脱腸が起こります。九割は男性に発症します。乳幼児期に発症する先天性のものと壮年期に発症する後天性のものがあります。

ヘルニアの症状は無痛性(時に有痛性)の鼠径部の膨隆で立位や腹圧をかけたときに明らかとなり、臥位になると消失します。また、嵌頓(脱出した腸管が元に戻らなくなる)による腸閉塞(悪心、嘔吐、腹部膨隆)や腸管の血行障害を来す場合があり、押しても元に戻らない場合や、腸管が壊死してしまった場合は緊急手術や腸切除を要する場合があります。

自然に治癒することはないので手術が行えない特殊な事情がない限り手術による治療を行います。

小児の場合は飛び出たヘルニア嚢(袋状になった腹膜)を縛って切り離してしまえばよいのですが、成人のヘルニアの場合、腹壁そのものに異常がありますので補強(穴をふさぐ)をする必要があります。以前は周囲の腹筋を縫い合わせて穴をふさぐ手術が一般的でしたが、現在では人工膜を用いて穴をふさぐ手術が一般的です。通常は皮膚を四―五センチほど切開しますが腹腔鏡という方法で手術を行っている施設もあります。麻酔は局所麻酔、腰椎麻酔、全身麻酔などの麻酔でも可能です。通常術後二―三日で退院できます。

小児の場合は全身麻酔で行います。施設にもよりますが生後三カ月以後で手術する場合が多いようです。育成医療等の補助もありますので各医療機関でご相談ください。