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ALS(2008年8月13日掲載)

石川清司・国立病院機構沖縄病院

残存機能生かせる社会に

進行性に筋肉が衰えていく病気の代表格に、進行性筋ジストロフィーと筋萎縮性側索硬化症(ALS)があります。筋ジスは幼小児期に発症することが多いのですが、ALSは働き盛りの年齢での発症が特徴です。県内には約百人の患者さんが入院、または在宅で療養されているものと予測されます。

この病気はアメリカでは「ルー・ゲーリック」病と呼ばれています。ベーブ・ルースとともに大リーグで活躍中に、この病気のためにバットをおかざるを得なかった国民的英雄をたたえてのことです。宇宙物理学者のホーキング博士も、この病気であることがよく知られています。

この病気が診断されると、その治療費の多くが公費で負担される「特定疾患」の申請を行うことができますが、その診断には筋電図検査が重要な役割を持つこともあって、最近では沖縄県の新規申請の約半数以上が当院から申請されています。

人間の動きを実現するために不可欠な運動神経細胞が脱落していくために、運動機能の障害のみではなく嚥下、発語、呼吸機能も障害されます。上肢型、下肢型、球まひ型があり、個人差がありますが、どの型もいずれは四肢まひとなり、臥床の状態になります。頭脳は明晰な方も多く、残された機能でパソコンを駆使し、多くの分野で希有な才能を発揮する人もみられます。

決定的な治療法が確立されていないため、対症的な栄養補給や、呼吸管理が重要な意味を持ちます。この病気の「病名の告知」は大切です。呼吸管理など積極的な治療を求めるとしたら、病気に対する正しい理解が必要となります。気管切開、経管栄養、人工呼吸管理により長期生存が可能ですので、生活の質(QOL)と生きがいは重要なテーマです。

当院で経験したALSの患者さんです。Hさんは、自分の意志でもって動かすことのできる部位は、全身の中で左手の小指だけでした。この一本の小指でもって随筆「小指奮闘記」を書き上げました。Tさんは、四肢に力がなく、口にくわえた絵筆でもって色紙を作成、ペルーの孤児院の建設にその生涯をささげました。二人の患者さんの文章と水彩画でもって「つたえてください・小指奮闘記」(医歯薬出版)が二〇〇一年に出版されました。

「気管切開」をするかどうか、「人工呼吸器」を用いるかどうかではなく、神経難病を患っても、安心して療養に専念できる社会の建設、残された機能を最大限に発揮できる機会を提供することが社会に課せられた大きなテーマです。