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胃食道逆流症(2008年5月28日掲載)

仲本敦・国立病院機構 沖縄病院

長引く咳・胸やけに注意

咳は患者さんが訴える頻度の最も高い症状の一つです。その多くは三週間以内に軽快する急性咳嗽と呼ばれるものです。

一方、三週間以上続く咳は慢性咳嗽と呼ばれ、蓄膿症に関連する咳(副鼻腔気管支症候群)、喘息に関連する咳、風邪が治った後も気管支粘膜の過敏性が持続するために続く咳(風邪症候群後遷延性咳嗽)などがあります。

さらに胃食道逆流と呼ばれる状態も長引く咳の原因となることが分かってきました。何らかの理由により下部食道括約筋の働きが落ちたり、肥満などにより腹腔の圧力が高くなったり、食道と胃の境目が横隔膜の上の方にずれている食道裂孔ヘルニアなどでは胃酸を含む胃の内容物が食道側に戻ってしまうようになります。これを胃食道逆流といい、何らかの症状や合併症を伴っている場合を胃食道逆流症といいます。

胃食道逆流症の一般的な症状は、胸やけ、苦い液の逆流の自覚や口腔内に酸味を感じる(呑酸)、嘔吐、嚥下に伴う胸痛などです。しかしこれらの典型的な症状以外に、のどの違和感、声がれ、耳の痛み、喘鳴(のどがぜーぜーする)などの耳鼻科的な症状や、おなかが張った感じがする、ゲップなどの消化器症状も起こります。さらに食道の下端には迷走神経とよばれる神経の末端が分布していて、これが逆流した胃酸を含む胃内容物によって刺激され咳が長引く原因となります。また胃液や胃内容物が慢性的に気管へ少量ずつ誤飲され咳が長引く場合もあります。

咳の原因として胃食道逆流が疑われるときには、胃カメラで食道や胃の観察を行って診断します。しかし典型的な逆流症状を伴わずに咳のみが続くこともあり、この場合の診断は難しくなります。

胃食道逆流症の治療には、胃酸を抑える薬が有効です。特にプロトンポンプインヒビターと呼ばれる胃酸抑制薬の効果が極めて高いことが分かっています。いくら咳止めを飲んでもまったく良くならなかった咳が、胃酸を抑える薬を一―二週間続けて内服したら劇的に改善したということも少なからずあります。

そのほかの注意事項として刺激物質が入っていたり、刺激臭のある食べ物は避ける、食後二時間は横にならない、ゆっくりと食事を取るよう心がけるなどが挙げられます。

またチョコレートやコーヒー、アルコール、脂肪を多く含む食事などは一時的に括約筋の機能を低下させる場合があり、このような物を食べた後に咳が悪化する人もいます。

心当たりのある方は是非一度医師にご相談することをお奨めします。