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ビタミン欠乏症(2008年4月9日掲載)

末原雅人・国立病院機構沖縄病院

不足すると神経系疾患に

ちまたでは多くの健康食品、サプリメントが人気です。総合ビタミン剤はその代表格ですが、正しい食生活が守られていれば、ビタミンはそうそう不足するものではないと言われます。しかし「飽食の時代」である現在でも認められる、「神経系の症状が中心となる」いくつかの疾患について述べます。

一、かっけ 慢性的ビタミンB1の欠乏で起こり、下肢の浮腫、しびれ感、筋力低下、筋けいれんなど末梢神経の障害による症状が有名です。重症化すると心不全も生じ、日露戦争での日本陸軍の戦死者中の大きな死因となった事例が有名です。白米に偏った食事が原因(ちなみにかっけがほとんど発症しなかった海軍では米に麦を混ぜていました)と言われています。現代でも激しい運動下での炭水化物に偏った食生活、アルコール過剰摂取などが加わったとき、例えば、高校生などの育ち盛りでかつ運動量の多いスポーツ選手が、炭水化物や清涼飲料水を取りすぎた場合などに生じます。基本的に蓄えのきかないビタミンであり、日常的な摂取が必用です。

二、ウェルニッケ脳症 やはりビタミンB1欠乏による疾患ですが、より短期間で欠乏した時に見られ、脳の障害による意識障害、眼球運動障害、小脳失調、後遺症としての認知障害などを起こします。アルコール大量摂取時や、妊娠中のつわりの際に、ビタミン補充などの対応がなされなかった場合などに注意が必要です。

三、亜急性連合性脊髄変性症 脊髄および末梢神経の障害による、下肢優位の感覚・運動障害の原因になります。ビタミンB12や葉酸の欠乏で起こりますが、特に前者は吸収障害による欠乏が多く、胃を切除してから数年後からの発症がほとんどです。貧血の原因の一つでもあり、定期的な血液検査で早期に発見する事が可能です。より緩やかな欠乏では認知症の原因となることもあります。

四、ビタミンE欠乏症 長期に及ぶ下痢や、小腸や膵臓切除後などに脂肪の吸収障害のため、脂肪とともに吸収されるビタミンEの欠乏がおこり、脊髄、末梢神経、筋肉の障害による下肢優位の感覚、運動障害を起こす事があります。ビタミンB12の場合と同様、外科的処置が原因になることが多く、外科医の方々にも十分注意していただきたい病態です。

五、アルコール過剰摂取・依存症 一、三とも重なりますが、飲酒による栄養のバランス障害、合併する胃腸障害、肝障害などから複数のビタミン欠乏の原因となります。