実はたばこを吸わない方の肺がんの原因は、はっきり分かっていません。肺がん患者の七割は喫煙者で、男性では九割が喫煙者です。ところが女性の肺がん患者で喫煙の経験がある方は三割程度です。
国立病院機構沖縄病院で治療した肺がん患者のうち非喫煙者の占める割合は、一九八〇年代は男性4・8%、女性49・8%に対し、二〇〇〇年代前半には男性6・1%、女性は64・8%に増加しています。非喫煙男性の肺がんも増えていますが、非喫煙女性の肺がんの増加は肺がん診療では問題となっています。
では、なぜたばこを吸わないのに肺がんになるのでしょうか? 肺がんの原因として、喫煙以外にも、大気汚染、排ガスなど環境的暴露、食生活、ホルモン、遺伝的要因などが考えられていますが、やはり最も関連が強いと考えられているのは受動喫煙です。
たばこにはニコチン、タールを含め約四千種類の化学物質が含まれ、そのうち約二百種類の有害物質、五十以上の発がん物質が含まれます。喫煙者本人が吸い込む主流煙よりも、喫煙者周囲の人が吸い込む副流煙の方に有害物質がより多いことが分かっています。夫が家庭内でたばこを吸う女性は、そうでない女性にくらべ肺腺がんになる危険性が二倍以上に高くなることを、昨年、厚生労働省の研究班から報告されました。受動喫煙の危険性を示した報告です。
がんの発生は発がん物質などによる遺伝子のダメージが原因です。病気によってなりやすさがあるように、がんにもなりやすさ、いいかえると遺伝子のダメージの受けやすさがあるようです。男性に比べ女性の遺伝子の方がダメージから回復しにくいことが報告されています。これには女性ホルモンの影響も関係していると考えられています。
最近の研究では、非喫煙者の肺がんは、喫煙者と異なる臨床背景や、特徴的な遺伝子の変化があることが確認されています。その遺伝子変化があると、新しい分子標的治療薬に有効であることや、喫煙者の肺がんに比べ予後がよいことが報告されています。
少しずつ研究、診療技術が進んでいますが、肺がんは発見しにくい病気であることに変わりはありません。肺がんを治す方法は、より早い段階で発見し治療することです。“私はたばこを吸わないから大丈夫”とは思わず、しっかり検診を受けることが大切です。