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社会不安障害(2008年3月5日掲載)

〓橋正明・糸満晴明病院

働き盛り世代での発症も

最近精神医療の中で社会不安障害(SAD)が注目されています。会議などで発言する。社会的立場が上の人と話をする。人前で文字を書く。よく知らない人と食事をする。このような状況では緊張したり、不安を感じることは誰にでもあります。いわゆる「あがる」ということです。そのような場面を何度か経験することで普通は次第に慣れていき、あがりにくくなっていくものです。

しかしSADは普通の人よりも強い不安を感じたり、それらの状況を避けることによって日常生活や仕事などに支障を来してしまう病気です。SADの患者さんは強い不安を感じると、次のような身体症状が現れます。

手足が震える。顔が赤くなる。吐き気がする。大量の汗をかく。トイレが近くなる。胃腸の不快感や下痢をする。息が苦しくなる。動悸がする。患者さんは自分の不安感は普通の人とは違う、不合理なものだと認識しています。次第に不安を感じる場所を避けるようになり、さらにそういう場所に行くことを考えるだけで、強い不安を覚えるようになってしまいます。

SADは以前、まれな病気と考えられていましたが、海外では全人口の約10%が罹患している、との報告があります。発症は十代半ばから二十代半ばに多く、三十―四十代の働き盛りに発症することも少なくありません。

日本ではSADという名称や病気の症状はあまり認知されておらず、原因を「自分の性格のせい」と思い、治療を受けていない方がとても多いようです。

症状が慢性化していくと、うつ病を合併したり、不安を回避するために多量のアルコールを摂取し続けて、アルコール依存症を引き起こすことがあります。思春期では引きこもりや、ニートの背景因子にあるといわれ、働き盛りの世代では、退職や自殺の原因の一つと考えられています。

SADの治療は大きく分けて薬物療法と精神療法の二つがあります。薬物療法は不安の軽減と、不安時の身体症状の緩和を図ります。抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、抗不安薬が主に用いられます。精神療法は認知行動療法が有効とされています。どちらも精神科あるいは心療内科の専門医と相談の上で、患者さん自身が納得して積極的に治療に参加されることが望まれます。

最後に周囲の人はSADに悩む患者さんに接するとき、次のことを心掛けてください。患者さんの悩みに共感してあげてください。「がんばれ」「気分転換をしよう」は患者さんの負担になるので気をつけましょう。治療、服薬の継続をサポートしてください。

※(注=〓は「高」の旧字体)