ある日突然、まぶたが重くなったり、物が二重に見えたりすることはありませんか? この症状は重症筋無力症(MG)の初発症状で出ることがあります。MGは重症と日本語訳されていますが、現在は早期発見、早期治療開始により良好な病勢のコントロールが可能になりました。
有病率は人口十万人に対して五・一人、男女比は一対二で女性に多くみられます。発症年齢は三十歳までは女性が男性の四―五倍、五十歳以降では逆に男性の方が多くなります。
症状は現れる部位や程度に個人差がありますが、最初はに現れることが多く、眼筋型とよび、眼以外の症状が一つでも現れると全身型とよびます。朝方は症状が軽いのですが夕方になると悪化します(日内変動)。まぶたが下がって開かない状態を眼瞼下垂とよび、物が二重に見えたりすることを複視とよび、いずれも初発症状です。
放置すると全身型へ移行し鼻声になったり、ろれつがまわらなかったり、物をかんだり、飲み込むのが困難になったりしてきます。さらに症状が進行すると、物を持ち続けることができなかったり、階段の昇降が困難になってきます。
MGの原因は神経からの刺激が筋肉に伝わる際に抗アセチルコリン受容体抗体ができて筋肉の収縮力が弱まってしまうことです。
このMGの治療は、内科的な内服治療薬に加えて抗体の産生部位である胸骨の裏側にある胸腺をとる外科的治療を行う必要があります。以前は心臓の手術のように胸を縦に切開する胸骨縦切開による拡大胸腺摘出術が行われてきました。
最近では眼筋型でも診断が確定すれば、早い時期から小さな傷で胸腔鏡を使用し胸の中を観察しながら胸腺を取り除くことが可能になりました。胸腔鏡を使用することによって胸骨という骨を切らずにすみます。一つのカメラ孔と一つのミニ開胸(切開が二―六センチ)で手術を行います。患者さんへの侵襲が少なく美容的にも優れた手技です。
外科的な治療の後は神経内科でステロイド、抗コリンエステラーゼ薬、免疫抑制剤など内服しつつ時間をかけて内服薬を減量していきます。この疾患は眼の症状が初発症状であるため、眼科へ受診することが多く眼科から神経内科へさらに呼吸器外科へと紹介されてくることが通常です。
この病気は重症という文字は取り去り、筋無力症と病名を変えても良いぐらい治療が進んできたといえます。ただし、早期発見と長期の薬物療法が必要であることを銘記してください。