顔の骨は漫画やイラストのいわゆるドクロマークなどでおおよそどんな形をしているかご存じだと思います。なぜだか、これらでは下顎(下あご)が描かれていないことが多いようですが、下顎骨も含めて顔面骨を構成しています。
ところで、これらの骨を手術で切ったり削ったりして手術治療することは一般の方のみならず、医療関係者でもあまりなじみがないことかもしれません。しかし現実には形成外科では顔面の骨を扱う手術は結構多く、なかでも外傷(けが)で顔面骨が骨折し変形を起こしたものを治す手術はよくあります。
顔面骨折は事故や転倒、スポーツ、けんかなどで起こることが多く、鼻骨、頬骨、下顎骨などの突出している所によく見られます。鼻骨骨折は外来で治療も可能ですが、その他の骨折はたいてい入院・全身麻酔が必要になります。口腔内や睫毛のすぐそばを切開して骨に至り整復(元の形・位置に戻す)するので傷あとはほとんど問題になりません。整復後の固定はチタンや体内で吸収される材質のプレートとネジで行います。
顔面骨の変形は外傷のときだけではなく発達性の異常、先天性疾患、腫瘍切除後にも見られ、やはり手術治療を行います。顎変形症と呼ばれるものは比較的よく見られ、下顎前突(受け口、しゃくれ)や後退、上顎の変形、顔面の非対称など多様な病態があります。ヨーロッパの一王朝のハプスブルグ家において下顎前突が家系的に発生しているのは有名で、遺伝的因子が関与し家族性に発症することもあります。
顎変形症では上顎と下顎のバランスが悪く、咬合(かみ合わせ・歯並び)も異常を来しています。この様な場合には上下の顎骨(顔面骨)を切削してミリ単位で移動させ、予定した位置で固定するのですが、歯全体も一緒に動かすことになるので、最終的に正常な咬合になるように術前の計画が重要となります。
矯正歯科との連携を行い時間をかけて術前矯正した後に顔面骨の手術となります。術前矯正は上下の顎骨の移動後(術後)に正常な咬合になるように行われるため、手術直前は逆に歯並びが悪くなったように見えることがあります。
これらの一連の治療は健康保険がきくことが多く、お心当たりのある方は相談されることをお勧めいたします。