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鼻から胃カメラ(2007年12月12日掲載)

樋口大介・国立病院機構沖縄病院

苦痛少なく 患者に福音

胃カメラ、大腸カメラは日本において四十年以上をかけて発達してきました。大腸カメラは細く柔らかくなり以前より検査に伴なう苦痛が少なくなってきました。大腸カメラの苦痛は腸がカメラで伸ばされるためであるのに対して、胃カメラの苦痛はカメラが舌根部(舌の付け根)に触ることで生じる嘔吐反射が原因です。嘔吐反射は生理的に当然で、しかも径約一センチの硬い内視鏡がのどに無理に押し入ってくるのだから平気でいられないのが普通です。

以前アメリカの病院で内視鏡施設を見る機会がありましたが、内視鏡のときは手術さながらで必ず麻酔医や麻酔看護師がついて即効性の鎮静剤を患者さんに注射して深く眠らせます。日本では鎮静剤の注射なしで胃内視鏡を平気で行ったりしますがアメリカでは絶対考えられないことです。

嘔吐しながら涙を流しながらひたすらじっと検査が終わるのを待っている日本人はなんと我慢強いかと思います。内視鏡医にとって自分がする胃カメラで人々が苦しむのを見るのは耐え難い苦痛です。実際、嘔吐反射やせき込みなどは、その時の健康状態によることがありますが経験豊富な内視鏡医でも鎮静剤なしで嘔吐反射を起こさせなくするのは至難の業です。

本来検査というものは患者に苦痛や危険を与えないものであるべきです。たとえば外科手術後の痛みなどのように治療に伴なう苦痛はある程度仕方のないことと納得できます。なぜなら一時的な痛みと引き換えに健康が得られるからです。しかし単なる検診に伴なう苦痛で得られるのは安心だけです。

ここ数年、鼻から入れる胃内視鏡(経鼻内視鏡)という方法が各施設で可能となってきました。これは直径約五ミリの細い内視鏡を鼻から挿入して胃を観察するもので、角度的に内視鏡が舌根部に触れないので嘔吐反射がほとんど起こりにくく(のどの違和感は多少あります)、苦痛がかなり軽減されます。だいたいの患者さんは鎮静剤なしで医師と話しながら検査ができます。多数例を経験している施設では患者アンケート調査の結果を学会報告していますが経鼻内視鏡を受けた患者の約九割が次回もこの方法で受けたいと答えています。約一割の人は鼻の穴が小さいため痛みが生じます。通常の太い内視鏡の画像の質や操作性にはおよばず精密検査や治療にはまだまだ不向きですが、検診目的には十分に機能します。将来的には検診においてこの方法が各施設に普及し主流になってくるのではないかと予想されます。