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アルコール依存症と沖縄(2007年11月28日掲載)

西村直之・あらかきクリニック

保健所などに まず相談を

全国には二百五十万人ともいわれるアルコール依存症の人たちがいます。アルコール依存症の人たちの平均寿命は五十二歳。命を落とさずとも、肝機能障害、胃腸障害、糖尿病、がん、精神障害など四十歳ごろから次々と心身の問題が現れはじめます。

困ったことに、依存症の人たちで自身の飲酒問題に気付き、治療や回復支援を自ら受けようとする人は、ごくわずかしかいません。また一時的に断酒しても問題の自覚を持ち続け生活スタイルを変え努力をする人は、さらに少なくなってしまいます。

よく見てください。身近にアルコール依存症の人がたくさんいるはずです。酒に寛容な沖縄では、より問題の影響は深刻です。全国最悪の飲酒運転、平均寿命の低下、DV、児童虐待などは飲酒問題と深く結びついています。

高い失業率、所得の低さ、教育水準の低さなどは、アルコール問題を引き起こしやすく、引き起こされた問題がさらに地域の活力を低下させる悪循環を生じさせます。

泡盛は、沖縄が育てた素晴らしい文化ですが、酒の飲み方となると、素晴らしい文化のレベルとはいい難いようです。

朝からの飲酒、記憶を無くすまでの深酒の繰り返し、酒がらみの仕事や信用の喪失、酒による身体問題などがあれば「問題飲酒」レベルです。周囲の心配や迷惑をよそに「まだ大丈夫」と言い出したら危険です。依存症は進行し、死に至る病です。問題の深刻化は、周囲の人たちを巻き込みます。これは、アルコールに限らず薬物やギャンブルでも同じです。

特に家族の病といわれるように、子どもたちへの影響は深刻です。飲酒問題のある家族の中で育った子どもは、発達上のさまざまな問題を抱えたり、依存問題や精神医学的な問題を抱えたりしやすいことが知られています。依存問題は、依存行動をとっている本人だけの問題ではありません。問題に巻き込まれている人すべてが、回復支援の対象となります。

依存症になると、上手なお酒飲みには戻れません。豆腐ようを豆腐に戻せないのと同じです。依存症を治してしまう特効薬はありません。魔法のような治療法もありません。しかし、酒を手放し、飲んでいた時よりも良い人生を得ることは可能です。「治癒はないが回復可能な病気」と言われるゆえんです。医療だけでなく家族・本人の自助グループも回復を支援してくれます。

飲酒問題に出合ったら、地域の福祉保健所、精神保健福祉センターにまずは家族の方だけでも相談してください。