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救急医療の現状(2007年10月24日掲載)

伊波潔・中部徳洲会病院

迫る崩壊 医師の心失わず

最近、産科でのたらい回しが問題となっていますが、先日、ある縁で関東の病院で救急医療に携わる機会を得ました。日本の最先端医療をけん引する病院が数多くある東京、一方で、その近辺の救急医療の現状は嘆かわしいばかりでした。産科や小児科だけでなく、外傷や腹痛、発熱など通常よく見られる救急疾患でさえ、四、五カ所のたらい回しは普通で、中には、近くで発症した患者さんが十七カ所の病院に断られ、県外の外れの病院へ運ばれてきたということです。

その原因は、新臨床研修制度のため、大学病院からの医師派遣ができなくなったためか、近年の医療関係者に対する刑事責任の追及のため、若い医師が生命の危険のある診療科を選ぶのを拒否し、医療崩壊が起こっているためか、または、医師のモラルの低下か、明らかな原因は分かりませんが、その現状は、救急患者さんにとって深刻な問題です。

以前より、産婦人科や小児科の医師不足は大きく取り上げられていますが、最近では、内科や外科といった診療科まで医師不足は拡大しております。一方、関東では、一つの病院に勤務せず、外部委託派遣会社に所属し、パートの形でいくつか病院で転々と働く医師が増えています。病棟の患者さんは担当せず、五時まで勤務です。それも責任ある仕事の放棄の一つなのかもしれません。

その点、現在の沖縄では、離島や一部地域での産婦人科医や脳外科医の不在等は問題となっていますが、救急患者さんのたらい回しを耳にすることはありません。現在の沖縄の救急医療体制は、少なくとも東京都周辺よりははるかに優れていると感じました。

今回、虎の門病院の小松秀樹先生の著「医療崩壊」にある日本の医療の危機が迫り来ることを少し肌で感じました。いかに時代は変わろうと、医療はただの仕事であってはなりません。やはり、そこには奉仕の精神が無ければなりません。また、沖縄の医療崩壊をきたさないためにも、患者さんと医師の間の考え方の大きな乖離を無くさないといけません。

これからわれわれは、「生老病死」人にとって死は不可避であること、医療は発展途上の不完全技術であり百パーセントの安全な医療は存在しないことを、一般の方々に分かってもらえるよう努力することが必要です。

沖縄は島国が故に、「ウチナーンチュ」としての心を忘れませんでした。現在、私は沖縄が島国であったことに感謝しています。沖縄の医師たちも医療人としての心を失わないでいられるでしょうから。