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ヘルニア(2007年9月26日掲載)

玉木正人・おもろまちメディカルセンター

専門領域で全く違う病名

「ヘルニア」という病名をご存じですか? 皆さまがよく聞かれる病名ではないでしょうか。しかし、個人個人により全く違う病態を考える場合もあるのだろうと、想像しています。

というもの、医師の間でもその専門領域によってヘルニアといっても全く違う病名について話す場合があります。整形外科医ならヘルニアといえば椎間板ヘルニアを考えますし、脳外科医なら脳ヘルニアを、外科医なら臍ヘルニア、鼠径ヘルニアなどを真っ先に思い浮かべるわけなのです。

腰を痛めたことのある方は腰椎椎間板ヘルニアを思い浮かべるでしょうし、お子さんや自身が、脱腸やデベソなどの治療の経験をお持ちの方は、鼠径ヘルニア、臍ヘルニアを思い浮かべるかもしれません。

そのような違いを理解するために、ヘルニアという言葉の定義を述べてみます。ヘルニアとは臓器や組織が、もともとあった場所から、直接その横から飛び出すことを言います。ですから「○○ヘルニア」などたくさんの病名が存在し、それを区別するため、飛び出した臓器や場所を頭につけて病名としているわけなのです。

例えば足の付け根のところは医学用語では、鼠径部といいますので、その場所におなかの腸などが飛び出すことを鼠径ヘルニアと言っています(俗にいう脱腸です)。

脊椎には椎間板という骨と骨の間のクッションの役割をする組織があり、それが重いものを持ったときなどに飛び出して神経を圧迫して痛みなどを来す場合があります。ではその病名は何でしょうか? そうですね、椎間板ヘルニアということになります。医学用語を使いこなせた気になりませんでしたか?

私の担当する外科でよく見かける鼠径ヘルニアとは、本来ならおなかの中にあるはずの腹膜や腸の一部が、緩んでしまった鼠径部の筋膜の間から皮膚の下に出てくる病気です。初めのころは、立ったり、おなかに力を入れた時に、股の皮膚の下に腹膜や腸の一部などが出てきて柔らかい腫れができますが、いつもは出たり引っ込んだりするのに、この腫れが急に硬くなったり、押さえても引っ込まなくなるような場合、緊急事態となります。

小児期の一部を除いては、手術以外に治療法はありません。手術方法も、自分の組織やメッシュという人工物で補強したり、腹腔鏡を用いる方法があります。現在はメッシュ法が一般的です。もしも脱腸かと思われたら、外科の先生と治療法について相談してみてください。