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肝動脈塞栓療法(2007年8月15日掲載)

我那覇文清・県立南部医療センター・こども医療センター

がん細胞の「兵糧攻め」

わが国では現在年間三万人以上の方が肝がんで亡くなっており、この数は過去三十年間で約三倍と増加傾向を示しています。肝がんの九割はB型やC型肝炎ウイルスに関連して発生しますが、近年とくにC型肝炎が増えています。C型肝炎では数十年の長い経過で慢性肝炎から肝硬変にゆっくりと進行しますが、肝臓の線維化にともなって肝がんの発生率も経年的に増加します。ある調査では、C型肝硬変と診断された患者の約半数が十年後までに肝がんを発症しています。

また飲酒や喫煙も肝がん発生に関与します。このように肝がんの大きな特徴は発生しやすい患者像がはっきりしていることです。従ってある程度予知可能であり、健康診断などでウイルス感染をチェックするのも重要ですし、ウイルス性肝炎と診断された場合はぜひ定期的な検査を受ける必要があります。

さて肝がん治療には大きく三つの柱があります。外科切除と局所焼灼療法(エタノール注入やラジオ波治療など)、そして今回ご紹介する肝動脈塞栓療法です。一般的に手術が可能であれば、再発が少なく長期成績の良い外科切除がまず選択されます。また最近ではラジオ波治療も盛んに試みられ、小さいものでは切除に匹敵する成績も報告されています。しかし実際には、年齢や肝機能、腫瘍の数や大きさなどによっては外科切除や局所焼灼療法ができない場合もしばしばあり、そんな場合にも治療可能なすそ野の広い治療が肝動脈塞栓療法です。

カテーテルと呼ばれるスパゲティほどの太さの管を足の付け根の動脈から肝臓まで入れ、その管を通して治療をします。まず腫瘍に抗がん剤を注入し、次に塞栓剤という物質を使って腫瘍への栄養補給路となっている血管をふさいでしまう治療で、いわば「腫瘍の兵糧攻め」です。治療効果は腫瘍の状態によっても異なり、一回でがん細胞を完全に殺せることもありますし、必要に応じて繰り返していく場合もあります。

肝がん患者の大多数は肝硬変があり肝臓の体力(肝予備能といいます)はもともと弱っていますが、多くの臨床研究で肝がん患者の予後を左右する最大の要因はこの肝予備能であることが示されています。

従って肝動脈塞栓療法においても、極力正常な肝臓にダメージを与えないで肝予備能を温存しつつがんの部分だけを治療するのがポイントですが、それには高いカテーテル技術が要求されます。そこでわれわれのような放射線科のカテーテル専門医の出番となります。

また最近では血管造影装置にCTが付いた治療機器も登場し、以前より丁寧かつ精度の高いカテーテル治療が可能になりました。肝動脈塞栓療法においても強力な武器となり、今後が期待されています。