沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2007年掲載分 > 脳梗塞

脳梗塞(2007年6月6日掲載)

饒波正博 沖縄赤十字病院・脳神経外科

異変感じたらすぐ119番

二〇〇五年十月にt―PA(アルテプラーゼ)という薬剤が急性期脳梗塞の治療薬として認可されました。脳梗塞とは脳の血管が詰まって脳が死んでしまう病気です。信じられないかもしれませんが、この薬剤が出るまで脳梗塞の治療薬として有効な薬剤はありませんでした。われわれ医師は脳梗塞の患者さんを目の前にして(難しい顔をしていたかもしれませんが)、実はお手上げの状態であったのです。

アルテプラーゼは脳梗塞の原因となっている血管のツマリを溶かして血流を再開通させてくれます。それも詰まっている部分だけに作用するため、副作用を低く抑えることができます。動かなくなった手が、そして足がみるみる動くようになる様は、以前患者さんを目の前になすすべもなく両手を上げていた者としては感慨無量です。

さて今回強調したいことは、アルテプラーゼには絶対に守らなければいけない「使用上の注意」があるということです。「以下の条件を満たす患者さんだけに、この薬を使ってもよい」と細かい決まりがあります。つまりすべての脳梗塞の患者さんで使えるわけではないということです。

先にアルテプラーゼは副作用が少ないと述べましたが、ゼロになったということではありません。この副作用(多くは出血で特に怖いものが脳出血です)が使用の大きな足かせになっております。

脳梗塞は数時間で徐々に進んでいく性質があります。血管が詰まって十分に時間がたち、脳梗塞が完成してしまった後、つまり先の血管がぼろぼろになり、脳がすでに死んでしまった後に再び血流がドッと流れたらどうなるでしょう? ボロボロになった血管から血液がもれて大出血が起こるでしょう。これを防ぐためには脳梗塞が完成する前、すなわち脳梗塞が発症したらすぐにアルテプラーゼを投与し血流の再開通を図らなくてはいけません。

これが初めに書いた「脳梗塞の急性期」の意味です。では急性期とはどのくらいの時間のことをいうのでしょうか? それは症状が出現して三時間以内です。つまりこの三時間以内にアルテプラーゼを投与しなくてはいけないのです。逆に三時間以上たってしまっていたら、副作用の脳出血の危険が高くなるので投与できなくなってしまうのです。

まとめます。アルテプラーゼという大変よい脳梗塞治療薬が使えるようになりました。ただ発症三時間以内に使いなさいというしばりがあります。急に手足が動かなくなった、意識がおかしいと思ったら様子を見たりせず、すぐ一一九番連絡をしてください。皆さまに申し上げたいことはこのことです。