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ERと救急医(2007年4月25日掲載)

高岡諒 県立南部医療センター・こども医療センター救急医

医療の原点、医師の登竜門

旧県立那覇病院が移転し、南部医療センター・こども医療センターとして開院してから一年たちました。私が勤務するER(救急外来)では受診者の過半数が子どもさんです。私は救急医ですが、患者さんやご家族から「何科のお医者さんですか?」と聞かれることが多く、ここではERと救急医についてお話しようと思います。

一般の外来では、事前に紹介状を頂いたり予約をしたり、診療をスムーズに行うためにいろいろと工夫されています。ERには一日百〜二百人の方が受診されますが、病状や緊急の度合いはさまざまで、ほとんどの場合は紹介状もありません。そこで、混乱しがちな現場を整理するために、段階に分けた診療を行います。

まず担当の看護師が、病状と緊急の度合いを大まかに判断して医師に引き継ぎます(トリアージと呼びます)。救急車による受診では、救急隊員がトリアージを担っています。トリアージの情報に基づいて、初期の診断と治療を行うのが救急医です。入院が必要な患者さんでは、救急医が必要性やタイミングを判断して各専門の医師へ引き継ぎます。

救急医のチームは、指導医と卒後数年の若手医師で構成され、小児科・内科・外科といった専門を分けずに、いろいろな患者さんの診療にあたります。急な傷病を扱う救急医の任務は、医療の原点、医師の登竜門とも言えるもので、救急は若手医師の必修部門になっています。さまざまな分野の、時に緊急を要する初期診療には、幅広い知識と臨機応変の対応が要求されます。また、救急特有の傷病も数多いため、何より日々ERの現場で研さんを積まないことには、救急医としての能力を修得し維持してゆくことはできません。

その一方で、専門を深めてゆくにも大変な修練が必要ですから、一人の医師が同時に救急医と専門医の両方であることは、現在の医療情勢の中ではたいへん困難なことと言ってよいでしょう。実際、救急医の経歴はさまざまですが、ある程度専門を修めた後に救急医として活躍している医師がほとんどです。

ERをのぞいてみましょう。受付や待合室は混雑し、カウンターではトリアージが行われ、救急車もどんどんやってきます。診察室では発熱の子どもさんが泣き、初期診療室では数人の医師が蘇生の処置を行っています。混沌とした現場の裏には、常に指導医や専門医に相談する若手医師の姿があり、これに対応して最新の文献や教科書をひもとく指導医、点滴やケアに忙しい中にも患者さんに気を配る看護師の姿がみられます。こうして、常に計画的でない救急医療を安全で円滑に行うため、皆頑張っています。