沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2007年掲載分 > 血圧の薬

血圧の薬(2007年2月28日掲載)

外間康男・みなみ野クリニック

生活改善で服用中止可能

「血圧が高いので薬を出しましょうね」という私の言葉に対し、大抵の患者さんが困ったような顔をする。そして「でも先生、血圧の薬は一度飲んだら一生飲まなければいけないんですよネ。そんな薬飲みたくありません」と決まったような文句が返ってくる。私はその都度時間をかけて、血圧の薬の必要性を説くのだが、同じような光景が毎日、沖縄中の診察室で繰り返されていると思われる。

高血圧を放っておくと脳出血を起こして命が脅かされる、ということは皆承知していることである。そのことを知っていながら血圧の薬を飲みたがらないのはどうしてだろうか? 何度も患者さんと話すうちに「一生薬を飲まなければならない」という中に、いくつかの誤解・不安が混在していることが分かってきた。

一番大きな誤解は、自助努力によって、例え血圧が下がっても薬を切ることができないというものである。これは血圧の薬を中断した人が、脳出血で倒れたという周囲で起きた事例に起因しているようである。そして次のように考えが進んでいく。

(1)いったん血圧の薬を飲んで中断すると、飲んでないときよりも高率に脳出血を起こしてしまう(2)一生飲み続けるのは面倒で自信がない(3)何よりも、一生飲むことで薬の副作用が心配である(4)それならば運動や食事療法で自分で治す―。だから薬はいらないということになるのである。

血圧の薬を中断して脳出血を起こして救急搬送される。確かにこれまで何度も見た光景である、しかしこのような人たちは血圧の薬を切った後、必ず血圧が服用前の高血圧に戻ってしまっている方々なのである。薬を切って血圧が高くなる人は、脳出血の危険性が高くなり、絶対に薬を切ってはいけない。

しかし自助努力によって血圧の薬を徐々に減らして中止しても、正常血圧が保たれれば薬を中止していいのである。決して薬の影響で体質まで変化して何が何でも中止できないということではない。

次に同じ薬を飲み続けることで体に何か害を与えるのではないだろうか、との不安についてはどうだろう。現在血圧の薬は世界で何億人の人々が毎日服用しているが、少なくとも脳出血のもたらす重大な事態に比すべき副作用はない。

このことについて私は患者さんに、「一円玉(薬の副作用の心配)と一億円(薬の効果)を目の前にして好きな方をもらいなさいと言われて一円玉を選ぶようなものですよ。そのくらい(それ以上)の差があるのですよ」と説明している。「早く治療することが大切です。薬を飲みながら努力しましょう。血圧が下がれば薬を減らして、そして切ることもできます」

以上の話でやっと患者さんは納得して薬をもらうのである。こと血圧に関しては、悠長なことは言っておれません。

「高いなら 今すぐ下げてみせよう 高血圧」