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医療用麻薬(2007年1月31日掲載)

大湾勤子・国立病院機構沖縄病院

適正使用で効果的に除痛

わが国におけるがんの罹患率の増加にともない、がん治療のみならずがんに伴う症状のコントロールは、患者さんおよび家族のQOL(生活の質)を高めるのに重要であることが再認識されています。特に痛みに対してWHO(世界保健機関)は痛みの強さに応じて、鎮痛薬(痛み止め)の段階的な使用法を示し、「各人にあった薬剤を、使用しやすい方法(経口、坐薬、貼付、点滴など)で、時間を決めて使用すること」を治療の原則として一九八六年に提唱しています。

鎮痛薬を「身体にはよくない」と思っている方も少なくなく、さらにモルヒネを代表とする「医療用麻薬」については、がんの末期の手段、頭がおかしくなる、中毒になる、寿命を縮めるなどといった誤った考えを持っている方が多いようです。実際には医療現場では正しい使い方で極めて効果的に除痛ができ、現在の痛みの治療には欠かせない薬剤です。

注意する副作用としては、内服を始めてまもなく、約三分の一の方に吐き気が出ることがあります。始めの時期だけ吐き気止めを飲んでおくとある程度予防でき、しばらく内服していくと吐き気は消失して吐き気止めを中止することができます。そのほかの副作用としては便秘があります。便秘はひどくならないようにモルヒネ開始時から便秘の薬を使います。このように「医療用麻薬」は十分な副作用対策を行いながら「確実な量」を使用することによって痛みから患者さんを救助する「治療薬」になります。

私は現在、がん疼痛はもちろんその他の難治性の慢性疼痛の治療に「医療用麻薬」を使っています。その結果多くの患者さんが痛みから解放されて、生活の質が高くなったのを確認してきました。痛み止めの服薬を必要としているのも、治療効果や副作用を感じるのも、患者さん本人ですから、私たち医療者は治療の内容を正しく説明し、理解を得て、納得していただいた上で投薬を開始するのを心がけています。

わが国における医療用麻薬の使用量は、欧米諸国と比較すると五分の一から二十五分の一とかなり少なく、世界の平均量よりも下回っています。日本人は我慢を美徳としている民族性もあるかもしれませんが、痛みは我慢していても生活の制限が増えるばかりで、強い痛みを我慢してそのままにしておくとかえって痛みに敏感になり、痛みをどんどん強く感じるようになってしまうこともあります。

「痛みは患者さんしかわからない、治療効果も患者さんしか評価できない」ことを常に念頭において「患者さんが満足する痛みの治療」を提供していきたいと考えています。