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増加傾向の肺炎(2006年12月27日掲載)

当真嗣勇・当真ハートクリニック

高齢者はワクチン接種を

細菌やウイルスなどの病原体が口や鼻を通って肺に感染し、炎症を起こすのが「肺炎」です。肺炎は戦後、栄養状態の改善や抗生物質の普及により大きく減少しましたが、近年は再び増える傾向にあります。現在、日本における肺炎の死亡者は年間約九万五千人で、がん、心疾患、脳血管疾患に次ぎ第四位を占めています。肺炎は高齢になるに従い急激に増加し、肺炎の死亡者の96%が六十五歳以上の高齢者で、八十五歳以上の男性では死因第二位、九十歳以上の男性では死因第一位となっています。

肺炎の原因となる病原体で最も多いのが「肺炎球菌」で、ほぼ四分の一を占め、六十歳以上の肺炎の50%を占めています。肺炎球菌性肺炎はほかの肺炎に比べて重症化しやすく、菌血症、髄膜炎といった致命率の高い合併症を生じます。肺炎の治療には抗生物質が使われますが、最近は薬が効きにくい耐性菌が増えています。しかも体力が落ちている高齢者には治療が追いつかない場合もあるため、何よりも予防が肝心です。肺炎による重症化を防ぐためには、健康三原則(栄養・運動・休養)に従い体力の維持増進を図り、日常生活でのうがい、手洗いの励行が必要とされます。そして肺炎球菌性肺炎の予防に最も強力な武器になるのが肺炎球菌ワクチンの接種です。

六十五歳以上の高齢者にインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの両者の接種により、肺炎による死亡率が非接種者に対し57%減少、また肺炎球菌性肺炎による入院が36%減少したという海外報告もあります。

肺炎球菌ワクチン接種は副作用も少なく、一回の接種で五年間有効で季節に関係なく接種できます。肺炎球菌ワクチンは世界保健機関(WHO)で奨励されており、欧米では五―七割の高齢者が接種を受けています。

インフルエンザワクチン接種は市町村において高齢者への公費補助があり高い接種率を有していますが、肺炎球菌ワクチン接種の公費補助は全国でも四十市町村と少なく、残念ながら沖縄県ではまだ助成制度がないのが現状です。肺炎球菌ワクチン接種は保険適用外で六千―八千円の自己負担となります。

六十五歳以上の高齢者、心臓病、呼吸器病、肝臓病、糖尿病、腎不全、養護老人ホームや長期療養施設などの居住者は肺炎球菌ワクチン接種を受けることをぜひお勧めします。