沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2006年掲載分 > 気になる下痢

気になる下痢(2006年12月13日掲載)

岸本邦弘・県立宮古病院

全身疾患に伴う症状も

日常の内科診療でよく遭遇する消化器症状に下痢があります。このありふれた症状は消化器疾患のみならず、全身疾患に伴う症状であることも少なくありません。

下痢とは水分の割合が多くなった便を排せつする状態のことです。臨床的には症状の持続期間により、急性と慢性に分けています。二週間以内の場合を急性下痢、三│四週間以上の場合を慢性下痢としています。

また、下痢はいろいろな原因で生じますが、その発生機序は、大まかに次の四つに分けられます。

(1)浸透圧性下痢 吸収され難い物質が腸管内に多く存在することによって生じます。このような急性下痢はマグネシウム入りの下剤や大腸検査前処置薬の服用後に生じます。また、慢性下痢としては牛乳を飲むといつも下痢をする乳糖不耐症による下痢、慢性膵炎、胃や小腸切除に伴う下痢があります。

(2)分泌性下痢 消化管粘膜からの分泌が異常に亢進することにより生じます。急性下痢としてはブドウ球菌、コレラ菌、赤痢菌などのエンテロトキシン(毒素)によって起きる腸炎があります。慢性下痢としてはまれですが、消化管ホルモン産生腫瘍によることもあります。

(3)滲出性下痢 腸粘膜の障害による腸管壁の透過性の亢進や吸収の障害により生じる下痢です。急性下痢としては細菌性腸炎、ウイルス性腸炎、抗生物質性起因性腸炎、食事アレルギー性腸炎、虚血性腸炎などがあります。慢性下痢を来すものとしては悪性腫瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸結核、放射線照射性胃腸炎などが挙げられます。

(4)腸管運動異常による下痢 腸管運動の異常亢進により腸内容物の通過が速まることにより下痢を生じます。このような例としては過敏性腸症候群がよく知られています。なお糖尿病は逆に小腸蠕動低下により腸内細菌が異常増殖して下痢を生じます。

このように下痢はさまざまな疾患によって引き起こされています。

下痢症状が出現したとしても風邪に伴う下痢、飲酒後の腹痛を伴わない下痢、食べ過ぎた後の急性下痢に対しては、特に気にしない傾向があります。しかし同じ急性下痢でも血液が混じる、腹痛、高熱、嘔吐を伴う、または回数が頻回(五、六回以上)の場合は病院を受診するようになります。また、慢性下痢でも腹痛や血液の混じる場合は症状を気にするようになります。

しかし下痢以外の症状が乏しい場合は数カ月も放置してしまいがちです。

このような慢性下痢で頻度の高い疾患に過敏性大腸炎が挙げられますが、潰瘍性大腸炎、クローン病などの初期症状のこともあるのです。また糖尿病や甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患や大腸がんなどが原因の場合もあります。症状の改善しない慢性の下痢に関しては専門医へ受診することをすすめます。