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象の足(2006年11月08日掲載)

松原忍・那覇市立病院

リンパ浮腫によるむくみ

「象の足」 私が小学生のころ、足の太い女の子をからかって男の子が使っていた言葉です。おデブちゃんだった私もずいぶん言われ、悔しい思いをしました。月日はめぐって医学生になった私は、本当の「象皮病」の写真を教科書で見て、びっくりしました。とてもむくんで重そうな足の写真でした。

「象皮病」はリンパ浮腫という病気が、徐々に悪化して皮膚が硬くごわごわになった状態です。たいていは下肢に起こるので長いズボンやスカートで隠してしまい、なかなか人目には付きません。

では、その原因となるリンパ浮腫とはどんな病気でしょう。リンパとは細胞の老廃物や体外から進入してきたばい菌と戦うための白血球・リンパ球が流れている透明な液体です。一―二ミリの細い管の中を通り、全身に存在します。このリンパ液の流れが悪くなり腕や足にたまるのがリンパ浮腫で、原因の分からない原発性リンパ浮腫と原因の明らかな二次性リンパ浮腫に分けられます。最も多いのはがん(乳がん、子宮がん、前立腺がん、大腸がんなど)の手術後に起こるものです。

はじめは腕や足がちょっとむくんだなあと思っても、一晩休めば良くなるので気にも留めない患者さんがほとんどです。しかし、徐々にむくむ回数が増え休んでも元に戻らなくなり、気が付いた時には元の手足と比べ二倍以上の太さになっていたりします。そのうち、腕や足全体が赤くなり四〇度近い高熱が出たり、皮膚が硬くごわごわになってきて「象皮病」の状態になることもあります。多くの患者さんは浮腫が元に戻らなくなったころに病院を訪れます。しかし、「がんは治ったのだから放っておきなさい」といわれ、そのまま不自由な日常生活を過ごさねばならないことが度々あります。

残念なことにいったん起こったリンパ浮腫は内服薬や注射では治りません。しかし丁寧に根気よく、むくんだ腕や足をマッサージして弾性ストッキングや弾性包帯による圧迫療法を正しく続けることで、浮腫はかなり改善することが可能です。また、リンパ管再建術の追加でよくなる場合もあります。

日本では治療に使うストッキングや包帯なども高価(保険が利かない)ですし、専門病院やセラピストが不足しているため十分な治療を受けられないのが現状です。しかし、簡単なセルフケアを覚えることで日常生活の不都合がかなり改善される疾患です。あきらめずに血管外科を標榜する病院を受診し、最も適した治療法を相談してみてはいかがでしょうか。