沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2006年掲載分 > 痛みの悪循環

痛みの悪循環(2006年10月11日掲載)

平良豊・牧港クリニック「痛みの治療センター」

局所麻酔で劇的な治癒効果

七十代の女性、「腰が痛くて寝返りさえきつい、一年もたつのにまだ治らない」と言って受診してきました。診断は腰椎圧迫骨折です。

注射をすればよくなりますよ」

「どんな注射ですか?」

「神経ブロックといって、痛みを起こす神経に局所麻酔薬を注射します」

「えっ、麻酔ですか、一時的な痛み止めですか?」

「そうではなくて、痛みを治す注射ですよ」

「???」

「まっ、とにかくやってみましょうか?」

「お願いします」

翌週患者さんが目を輝かせて診察室に入ってきました。「先生、あんなに痛かったのにとっても良くなりました。でもなぜ麻酔で痛みが治るんですか?」。ペインクリニックの診察室でよくある質問です。誰もが抱く当然の疑問です。今日は局所麻酔薬が一時的痛み止めでなく、痛みそのものを治すことを解説します。

頭痛、三叉神経痛、五十肩、帯状疱疹、椎間板ヘルニア、腰椎圧迫骨折などは痛い病気の代表ですが、消炎鎮痛薬などの内服や物理療法を行えば自然に治っていく病気でもあります。しかし、治るはずの時期にきてもまだ痛い、あるいは、かえって痛くなっていく場合があります。この原因が"痛みの悪循環"です。

痛みがあると身体の防御反応として、(1)運動神経が緊張し、筋肉を硬直させます。その結果、筋肉の中に乳酸や発痛物質(痛みを起こす化学物質)が蓄積します(2)交感神経(ストレスに反応する自律神経)も緊張します。すると血管が収縮し、局所の血行が悪くなります(3)知覚神経は、痛みを繰り返すと次第に過敏になっていきます(4)脊髄神経細胞は痛みを記憶し、いつまでも脳に痛みを送り続けるようになります(5)気分は憂うつとなり、睡眠は不足がちとなります。以上(1)〜(5)の反応はすべて痛みを起こす原因になります。このように痛みが、ある一定限度を超えると痛みに慣れるのではなくかえって痛くなり、いつまでも続いてしまう結果になります。

局所麻酔薬は末梢神経を一時的(一時間程度)に麻痺させる薬ですが、この悪循環を断ち切ることによって筋肉の"こり"をほぐし、痛みを止め、血管を広げて血行を良くします。この結果鎮痛効果は二〜三日以上も続きます。そして繰り返して行ううちに痛みが治っていくわけです。

このように神経ブロック療法は慢性化した痛みにも劇的な効果を発揮します。また正しく使えば安全な方法です。しかし一歩使用法を誤ると深刻な副作用が起きることがあります。そのため専門施設で受けることが重要となります。