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抗うつ薬(2006年9月27日掲載)

なごみ医院・崎浜秀樹

数日で気分がさっぱり

数年前に新しいタイプの抗うつ薬(SSRI=脳内のセロトニン作用を高める薬)が世に出てうつ病の治療が変わりました。

さまざまな悩みを抱え、見るからに憂うつそうで、何日も眠らずに目の下に隈をつくって外来を訪ねてきた人が、この抗うつ薬を服用し、うまく効けば数日で何となく気分がさっぱりし、考えが進むようになり眠れるようになる。二、三週間経つと、いつの間にか気分が晴れ、活気を取り戻すようになります。現在うつ病で来院する人の半数以上にこれら新しいタイプの抗うつ薬が効くようです。

また、うつ病(いろいろな分類研究がありますが、ここでは治療を要する憂うつな病気ぐらいにとらえてください。詳しくはインターネット、最寄りの精神科医、かかりつけ医に尋ねてください)の人が増えました。昭和五十年代初め、八重山で勤務しましたが、治療が必要なうつ病の人を診たのは五年間で三人でした。それが今、ここやんばるの小さな診療所ですが、一日に三人から五人のうつ病の患者さんを診るのは普通です。

ある統計によれば二十年前の患者が八万人で、現在は八十万人と報告されています。特にこの数年、新しい抗うつ薬が出てから患者数の伸びは著しく最近の週刊誌では七百万人という記事が載っていました。

この数年全国で三万人を数える自殺者が毎年出て、その七、八割がうつ病だと言われ、早期発見、早期治療が行われれば、自殺者が減らせる。うつ病は心の風邪みたいなものだから、もっと気軽に心療内科や精神科の門をたたいてください、と言われ精神科の敷居が低くもなっています。

しかし、一方で自殺者数は、失業率に比例するとの報告も多く、自殺の原因を第一義的にうつ病に持ってくるのはある意味筋違いであり、失業者を多く出した為政者の失策を覆い隠すことにもなりかねません。

さらに、「うつ病増加」にも少し疑問を持ちます。うつ病の範囲が広がっています。それこそ一昔前は、失恋や失業でうつ病になったりしませんでした。というより正確にはそんな憂うつはうつ病として認知されずに治療に来ませんでした。周りからは「放っといても治る」、医師からは「処方するのは時間だけ」と言われました。

それが今では、普通の人の失意や失敗がうつ病を招き治療しないと自殺に至るといわれました。そこで口の悪い同僚は言いました。「抗うつ薬の発見と、軽症うつ病の発見と広がりは、無関係ではない」と。皆さんはどう思われますか? 抗不安薬も事情は同じです。