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大動脈瘤(2006年9月20日掲載)

琉球大学医学部附属病院・山城聡

破裂・解離まで症状なし

高齢社会の進行と食生活の欧米化に伴い、動脈硬化に起因する疾患の増加が顕著になってきました。その中で大動脈壁の全周、または一部が生理的限界(正常径の50%以上)を超えて拡張した状態である大動脈瘤は、われわれ心臓外科医が扱う代表的な疾患の一つです。

大動脈瘤の予後はいったん破裂すると非常に悪いものです。従って、治療の原則は、瘤が破裂する前に人工血管置換術を行うことです。

風船が小さいうちは弾力がありますが、大きくなるに従い壁が硬く薄くなり容易に破裂することを皆さんもご存じでしょう。大動脈には心臓から拍出された血液の圧、つまり血圧が直接かかるため、高血圧の場合、大動脈壁には大きな負担がかかることになります。そのため大動脈が瘤化、さらには破裂することは容易に推測されるでしょう。

大動脈瘤の特殊な状態である解離性大動脈瘤は、突然大動脈壁が内膜と外膜の二層に急速に解離されていく疾患で、激痛を伴って発症します。極めて致死的で、未治療では二週間以内に75%の人が死亡するとされています。大動脈は図に示したように内膜・中膜・外膜の三層から形成され、血圧に耐える弾力性と強固性を有しています。しかし、解離が発症すると偽腔は非常に脆弱な外膜のみで血圧に耐えなければならず、容易に破裂することになるのです。

約二十年前に故石原裕次郎氏がこの疾患に罹患した際、緊急手術により奇跡的に生還したと報道されたことを覚えている方も多いでしょう。手術手技および補助手段が改良されたとはいえ、解離性大動脈瘤は緊急手術(十時間以上におよぶこともある)ゆえの危険性や、動脈硬化に起因する合併症が多く、今なお、満足すべき手術成績とは言えないのが現状です。

残念ながら大動脈瘤は破裂あるいは解離するまで、多くの場合、無症状で経過しますが、偶然発見され、かつ瘤径がまだ小さい場合、厳重な降圧療法により瘤の拡大を予防し、手術を回避できる可能性があります。つまり検診におけるエックス線、エコーおよびCT検査などは早期発見に非常に有用になるのです。

大動脈瘤は一定の大きさ以上になると手術が必要になり、われわれ心臓外科医の出番となるわけですが、前述のように手術はいまだ安全なものとはいえません。できれば心臓外科医が皆さんの主治医にならないことを切望します。動脈硬化危険因子(高血圧、高脂血症、糖尿病など)を有する皆さん、あなたの大動脈は大丈夫でしょうか?