沖縄県医師会 > 健康の話 > 命ぐすい・耳ぐすい > 命ぐすい・耳ぐすい2006年掲載分 > 人工膝関節の進歩

人工膝関節の進歩(2006年8月09日掲載)

與座格・大浜第一病院

開発進めば正座も可能に

今日医学の進歩により人間の寿命は飛躍的に伸びました。しかし寝たきりのまま、ただ長生きするだけでは人生は寂しすぎます。最近では自立した生活期間(健康寿命)を伸ばすことの重要性が叫ばれるようになりました。寝たきりの原因のひとつに関節の病気があります。人工関節はこれらの患者さんの関節の痛みをとり、再び歩けるようにし、ひいては人生を実り多いものにするために開発されました。今では整形外科にかかせない重要な手術のひとつです。

人工関節の研究は十九世紀中ごろから行われてきました。材料としてガラスやセルロイドなどいろいろなものが使われ、試行錯誤の揚げ句一九六〇年代にチャンレイ博士が金属とプラスチックで初めて実用的な人工股関節を作りました。後に彼の弟子によりその技術が人工膝に導入され、七三年にはインソール博士らによって実用的な人工膝関節が開発されました。しかし考えてみれば人工膝関節の歴史は、まだほんの三十年程度しかありません。

沖縄県で初めて人工膝関節の手術が行われたのは七八年ごろ、那覇市与儀の前琉球大学医学部附属病院においてではないでしょうか。その後少しずつ手術は増え、平成元年ごろの手術件数は県内で年間百件弱でしたが、昨年度はなんと年間六百件近い手術が行われています。

現在でも生体工学の進歩のもと、人工関節の進化は止まる事を知りません。最近の人工膝関節におけるトピックスをあげてみます。

ひとつはよく曲がる膝の開発です。人工膝関節で正座ができたらというのは患者さんだけでなく医者にとっても理想ですが、ここ数年それが可能となる人工膝関節が開発されてきました。ただ長期成績はまだ不明であり、手術前から曲がらない膝には適応がありません。将来的には手術前の状態にかかわらず正座が可能な人工膝の開発が待たれます。

またここ数年、最小侵襲人工膝という分野が出現しました。これは手術の傷や筋肉への切開を従来より小さくすることで、手術後の疼痛を軽減させリハビリの回復を早め、最終的に早期退院をめざすものです。これには整形外科医の間でもまだ賛否両論あります。一番多い反論は、傷が小さくては正確な手術ができないというものです。逆に正確な手術ができるのなら傷が小さいに越したことはないという意見もあります。私もその考えのもと、最小侵襲手術に昨年から取り組んでいます。

最後に人工膝関節の手術をロボットで行うという取り組みです。これは外科医としては正直面白くありません。今のところまだ普及はしていませんが、できれば私がメスを握っている間は普及しないでほしいと心から願っています。