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病院感染への対策(2006年6月21掲載)

比嘉太・琉球大学医学部附属病院

正しい手洗いが極めて有効

患者さんの病気が比較的重い場合、特殊な検査や手術が必要な場合に、一定期間入院していただき健康の速やかな回復を図るというのが病院の大きな役割の一つです。入院していただくことによって、外来診療では行えない高度の医療を提供することが可能となります。その一方で、入院患者さんは病気のために体力が低下し、病原体に対する防御力も低下しているため、本来の病気に対する治療の経過中にさまざまな感染症を合併してしまうことがあり、これを「病院感染」と総称しています。発病は避けられない場合も少なくありませんが、万一に病院感染が発症した場合には、もちろん医療スタッフは全力を挙げて感染症の治療を行います。

感染症の治療薬としては、多くの抗生物質(抗菌薬)が開発され、万能薬のように使用されてきました。しかしながら、新しい抗菌薬が開発されても、しばらくたつと新薬が効かない細菌が出現するといった問題が生じています。特に、病院内では「病院感染」に対して、強力な抗菌薬を次々と使用して治療にあたってきたため、さらに新しい薬剤耐性菌の出現をもたらす悪循環をうみ、大きな問題となってきました。

この病院感染対策は日本のみならず世界中の医療の大問題です。こうした中で、科学的に有効な病院感染対策が確立されてきました。一つは病院内での薬剤耐性菌の発生状況を経時的に監視すること、もう一つは感染経路別に感染対策を実施することです。たとえば、結核など空気感染に対する病院感染対策には、室内の十分な換気とN95マスクという特殊な高品質マスクが有効です。インフルエンザには主に飛沫感染対策として、マスク着用を励行します。

薬剤耐性菌感染には接触感染対策を行います。接触感染対策では、マスクや手袋、エプロン、ガウンを着用してケアにあたる場合や、個室管理にて対応させていただく場合があります。実に基本的ですが、正しい手洗いの励行は感染対策に極めて有効ですので、患者さんや面会の方々にも実行していただきたいと思います。インフルエンザなどの流行時には体調が悪い方は面会を避けていただくなどの配慮も必要です。

現在では各病院に感染対策委員会が設置され、科学的な感染対策の基本に沿った効果的な対策を実施し、病院感染の発生を少しでも減らすために、日々懸命な努力がなされています。入院されている患者さんやご家族にご協力をお願いする場合があり、戸惑うことがあるかもしれませんが、ご理解をいただきたいと思います。