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ひどい物忘れや尿漏れ…(2006年5月17掲載)

吉井與志彦・琉球大学医学部付属病院

まず受診 手術で治るケースも

最近うちのオジイは、「物忘れが強くなった」「あまり人と話さなくなった」「今日が何年何月何日か分からない」という悩みや、「頭が何となく重い」という訴えの方があなたの周囲にいませんか?

あるいは「歩き方がギコチない」「尿をもらす」という悩みを聞いたことがありませんか?

このような症状を出すのに慢性硬膜下血腫(図1)や正常圧水頭症(図2)といった病気があり、手術でそれら症状を治すことができます。近年、話題になっている認知症(痴呆)を呈するアルツハイマー病とか脳血管性認知症も病気の初期のころは全く同じような症状を出しますが、このような病気と慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症とは本質的に違います。

「慢性硬膜下血腫」はお年寄りに比較的多い病気です。頭を柱にぶつけるとか、転倒して頭を軽く打ったという場合です。受傷の際は症状がほとんどないか、あるいは一時的な頭痛で、すぐに治ってしまいますので、頭を打ったことなど忘れてしまいます。しかし、その後数カ月ぐらいして、硬膜下に徐々に血がたまって血腫ができて、それが脳を圧迫してくると前述のような症状を出してくるのです。

診断は頭部のCTやMR画像を撮ればすぐに分かります。そして、治療は局所麻酔で容易にできる「穿頭血腫洗浄術」を行うことにより、手術直後からそれらの症状がきれいに消えてしまいます。

「正常圧水頭症」は、クモ膜下出血や髄膜炎後に起こる場合と、先行疾患がなく、前述のような症状をきたす特発性の場合とがあります。特発性の場合、なぜ脳脊髄液の流れが悪くなるのかは原因不明です。この病気はCTやMR画像で、脳室が拡大していること、局所的な脳委縮はあっても、高位円蓋部の脳溝とクモ膜下の狭小化等が見られること、髄液圧が正常(といっても本人にとっては高いのですが)であることで、容易に診断できます。治療は一般的には脳室腹腔短絡術といって、脳室内の髄液を皮下のチューブを通して腹腔内に流す側副路を造る手術で、症状は消失します。

ただし、短絡術をしても症状が消えない場合もあります。その原因が何かはいまだはっきり分かっていません。「物忘れ、見当識障害、尿失禁など」を起こしていても脳神経外科的な手術で「治る」認知症もあることを知ってください。ご心配の方は、脳神経外科専門医に相談されることをお勧めします。