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「治験」て、なあに(2006年4月19日掲載)

仲本敦・国立病院機構沖縄病院

「くすりの候補」の臨床試験

大昔から人は薬とともにさまざまな病気と闘ってきました。

薬は大まかに、薬局などで購入でき自分の判断で使用できる大衆薬(市販薬)と、医師の診断でしか使用できない薬(医薬品)の二種類に分けられます。化学合成や、自然界で発見された物質の中から、病気に効果があり、人に使用しても安全と予測されるものが「くすりの候補」として選ばれます。

この「くすりの候補」の開発の最終段階では、健康な人や患者さんの協力によって、人における効果と安全性を調べることが必要です。こうして得られた成績を国が審査して、承認されたものだけが「医薬品」となります。人における試験を一般に「臨床試験」といいますが、「くすりの候補」を用いて国の承認を得るための成績を集める臨床試験は、特に「治験」と呼ばれています。

治験は病院で行われます。治験を行う病院は、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」という規則に定められた要件を満たす病院だけが選ばれます。その要件とは医療設備が十分に整っていること、責任を持って治験を実施する医師、看護師、薬剤師らがそろっていること、治験の内容を審査する委員会を利用できること、緊急の場合には直ちに必要な治療、処置が行えることなどです。

医師は「くすりの候補」を使用することによって、病気に効果があると期待される患者さんに、治験への参加をお尋ねします。

治験に参加するメリットは、治療法が無かったり、現在の薬で不十分な点がある場合に新しい治療方法を受けるチャンスとなります。丁寧な診察や詳細な検査を受けることによって病気の状態を正確に知ることもできます。さらに同じ病気を持つ人や次世代を担う人たちのために、効果的で安心な薬を残すという社会貢献ができることもすばらしいことだと思います。

逆にデメリットとしては、指示された通りの服薬や定期的な通院が求められます。また基礎研究の段階では知られていなかった未知の副作用が生じる可能性もあります。新しい薬と、すでに医薬品として承認されている薬を比較する治験の場合は、必ずしも新しい薬を試せないこともあります。メリットとデメリットを十分に踏まえたうえで、治験へ参加するかどうかを決めていただきたいと思います。

病気になることは不幸なことですが、あなたの病気が、治験にかかわることで、「自分も新しい薬を育てるメンバーのひとりになろう」という気持ちを持つことができれば、治験が少し身近に感じられるのではないでしょうか。