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ニコチン中毒(2005年6月29日掲載)

宮城雅也(県立那覇病院)

胎児をたばこから守ろう

JT(日本たばこ産業)の筆頭株主が国の財務省であることが、どう影響するかわかりませんが、何故か日本は禁煙後進国です。世間ではタバコは嗜好品と言われ「愛煙家」なる言葉もありますが、ここ数年来示されている科学的データからは、限りなく麻薬に近く、依存性があり、嗜好品と呼べるものではありません。有害性を理解し、禁煙したい意志があるが禁煙できない人は多く、タバコ依存のニコチン中毒患者で、禁煙支援と医療的救済を必要とします。また成人喫煙者の90%近くは法律で禁じられた未成年の時より吸い続けております。

周りに誰もいない喫煙行為は、自分で自分を傷つけている自傷行為です。しかし妊婦の喫煙になると、周りに人がいなくても自傷行為だけではすみません。おなかの中の小さな赤ちゃん(胎児)を傷つけています。米国の最高裁では、コカイン中毒の妊婦が胎児虐待で有罪判決となりました。それと同様に妊婦がタバコを吸うことは、ニコチン中毒妊婦による胎児虐待となります。動物実験では、タバコは環境汚染のダイオキシンより胎児により大きな害を与えることが証明されています。

タバコの煙は、その中に含まれる一酸化炭素とニコチン、シアン化水素が胎児の成長を阻害します。前置胎盤、胎盤早期剥離の頻度が上がり、梗塞、石灰化、繊維化がすすみ胎盤機能は低下します。その結果、自然流産や早産が増加し、低出生体重児が増えます。また生まれた後も乳幼児突然死症候群の頻度が高く、先天異常、脳室内出血、悪性腫瘍の発生率も上がり、身長の伸びも悪く、知能の障害、注意欠陥多動性障害、問題行動や行為障害、暴力犯罪などの反社会的行動を起こす率も高くなります。こんなに恐ろしいタバコであるにもかかわらず、妊婦の喫煙率は上昇しています。

ニコチン中毒症には、ニコチンパッチが有用で禁煙の意思があれば楽にタバコが止められます。通常成人だと二カ月で禁煙できますが、未成年者ではわずか一週間で禁煙ができるとの報告もあります。しかしニコチンパッチは、残念ながら妊婦には禁忌で使用できません。ニコチンパッチは許されず、タバコは許されていることに大きな矛盾を感じます。

ニコチン中毒症の妊婦さんの禁煙を周囲の人が支援することが大切です。特に夫も一緒に禁煙を宣言することが大切で効果があります。また妊婦の受動喫煙も同様に胎児に影響を与えるので、公共の場所(レストランなど)では、誰が妊娠しているのかわかりませんので、健康増進法に基づき禁煙するのが人としての義務です。

訴えることのできない赤ちゃんを皆で守りましょう。