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平成25年度 都道府県医師会
勤務医担当理事連絡協議会

宮里善次

常任理事 宮里 善次

去る11 月29 日(金)日本医師会館に於い て標記連絡協議会が開催された。協議会では、 先般、岡山県で開催された全国医師会勤務医部 会連絡協議会について報告があり、続いて、次 期担当県の神奈川県医師会より開催の概要につ いて説明があった。その後、「医療事故調査制 度及び新しい専門医制度」をテーマに、シンポ ジウム形式で会が進められた。会の概要につい て下記のとおり報告する。

会長挨拶 日本医師会長 横倉義武

本日は、平成25 年度都道府県医師会勤務医 担当理事連絡協議会にご出席いただき、また、 日頃より勤務医に係る様々な問題を検討してい ただき感謝を申し上げる。さらに、先般、岡山 県医師会の担当により開催された平成25 年度 全国医師会勤務医部会連絡協議会では、多くの 会員にご参集いただき、実り多い協議会になっ たことについて、併せて感謝を申し上げる。

経済再生がさけばれるなか、安倍政権がスタートして約10 ヶ月が過ぎ、経済に関しては明 るい兆しがでてきている。一方で、社会保障の 分野ではかなり厳しい状況に直面している。国 民の生命と健康を守るという我々の主張と経済 優先の主張とで対抗せざるを得ない状況があ る。私どもは、過度の規制改革や自由診療的な 発想のもとでの社会保障のあり方になった場 合、公的医療保険による国民皆保険制度の堅持 を主張していかなければならない。このような 中、診療報酬の改定の業務も佳境に入っており、 本日午前中に財政制度等審議会より平成26 年 度予算の編成等に関する建議書が提出をされた ところである。診療報酬の自然増というものが 聖域扱いをされていることはおかしいと言われ ている。また、薬価を下げる訳であるが診療報 酬本体に持ち込むということへの財務省側の異 議が強く書いてある。私どもとしては、2000 年からの診療報酬が非常に低く押さられること によって、医療崩壊と呼ばれることが言われた。 それをやっと回復へと向かいつつあるという現状である。それぞれの医療機関の運営状況がさ ほど改善したとは思えない。なんとか来年4 月 の改定でもしっかりとした、特に診療報酬の本 体の部分については、必要な財源をしっかりと 確保していただくことを強く主張している。

先日、国民医療を守る議員の会という議員連 盟をつくっていただき、300 名を超す国会議員 の方が一堂に会して、国民医療を守るという 我々の主張に理解を示し、必要な財源の確保を 申し合わせていただいているところであるが現 状は厳しい。一方で、社会保障審議会・医療部 会で、医療人の環境改善支援センターを都道府 県に創設する等、我々の取り組みが徐々に功を 奏している部分もある。日本医師会としては、 このようなことを実現させ、少しでも勤務医の 環境の改善に努めていきたいと考えている。

このような課題が山積するなかで、すべての 医師が医師会に結集する形をなんとか作るべ く、プロジェクト検討委員会を立ち上げ、勤務 医の組織率向上に向けての具体的な方策につい て検討している。

本日は、医療事故調査制度、新しい専門医制 度をテーマにシンポジウムの形でフリーディス カッションをしていただく予定としている。この 二つの問題は、ともに会員にとって、また、とく に勤務医にとって、大きな問題である。今の私ど もの取り組みについて説明をさせていただいて、 それに対して忌憚のないご意見をいただきたい。

議事【報告】全国医師会勤務医部会連絡協議会について

1)平成25 年度報告(岡山県医師会)

清水信義岡山県医師会副会長より、平成25 年度全国医師会勤務医部会連絡協議会につい て、概ね下記のとおり報告があった。

去る11 月9 日(土)、ホテルグランヴィア 岡山において「勤務医の実態とその環境改善- 全医師の協働に向けて」をメインテーマに協議 会を開催した。全国より400 名近くご参加い ただきこの場を借りて感謝申し上げる。

午前の部では、今村聡日本医師会副会長によ る特別講演1「日本医師会の直面する課題」、永井良三自治医科大学学長による特別講演2「日 本の医療をめぐる課題:チーム医療を中心に」、 泉良平日本医師会勤務委員会委員長より「日本 医師会勤務医委員会報告」、大久保吉修神奈川 県医師会長より次期担当県挨拶が行われた。

午後の部では、「様々な勤務医の実態とその 環境改善を目指して」をテーマにパネルディス カッション、「岡山からの発信- 地域医療人の 育成」をテーマにフォーラムを行った。

また、協議会の総意の下、勤務医の勤務体制の 整備、大学病院医師の医療職化、多職種との協働 により医師業務に専念できるチーム医療の推進、 男女共同参画の推進と就労支援、これからの医療 を担う医師をみんなで育てる等、勤務医の環境の 改善を求める「岡山宣言」が満場一致で採択された。

小森貴日本医師会常任理事より、「岡山宣言」 については、記者会見で報道各社に発表したう え、内閣総理大臣、厚生労働大臣、他関係省庁 の閣僚、衆参両議院、衆参の厚労委員会委員等 に送付をした旨報告があった。

2)平成26 年度担当医師会挨拶(神奈川県医師会)

澤井博司神奈川県医師会副会長より、平成 26 年度全国医師会勤務医部会連絡協議会につ いて、概ね下記のとおり案内があった。

次回は、平成26 年10 月25 日(土)横浜市 の横浜ベイシェラトンホテル&タワーズにお いて、「地域医療再生としての勤務医〜地域医 療における病院総合医の役割〜」(仮)をテー マに開催する。多くの参加をお待ちしている。

【シンポジウム】「医療事故調査制度及び新しい専門医制度」

1. 医療事故調査制度

1)医療事故調査制度のその後の動き

高杉敬久日本医師会常任理事より、医療 事故調査制度のその後の動きについて、概 ね下記のとおり説明があった。

―医療事故調査制度に関するこれまでの状況

・ 医療行為に関連して起きる予期しない死亡 事例についての原因究明と再発防止の観点に立った事故調査の仕組みに関して、厚労 省の「医療事故に係る調査の仕組み等のあ り方に関する検討部会」が、平成25 年5 月29 日に報告書「『医療事故に係る調査の 仕組み等に関する基本的なあり方』につい て」を公表した。

・ 医療事故調査に関する検討委員会(プロジ ェクト)は、会長諮問「医療事故調査制度 の実現に向けた具体的方策について」に対 する答申を平成25 年6 月7 日に取りまと め、報告書として都道府県・郡市区医師会・ 医療関係団体へ送付した。

・ 平成25 年6 月20 日、厚生労働省「医療 の質の向上に資する無過失補償制度等の あり方に関する検討会」で、「『医療事故に 係る調査の仕組み等に関する基本的なあり 方』について」が報告され、国での検討は 一旦終了となった。

・ 日本医療安全調査機構では、運営委員会(第 1 回:平成25 年7 月3 日、第2 回:平成 25 年10 月3 日)を開催し、同委員会の下 に「医療安全に関する第三者機関設置に係 る推進委員会」を設置した。「推進委員会」 は、厚生労働省ならびに医療関係団体に よる報告書をふまえ社会的かつ国民から信 頼を得る第三者機関を検討するため設置さ れ、平成25 年度内に提言を行う予定としている。

・ 平成25年11月8日、厚労省社会保障審議会・ 医療部会において、厚生労働省「医療の質 の向上に資する無過失補償制度等のあり方 に関する検討会」で、「医療事故に係る調 査の仕組み等に関する基本的なあり方」が 報告され、各委員から賛意が示された。

―厚生労働省「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」について

・ 検討部会では、平成24 年2 月15 日より、 医療関係者や医療事故被害者等からのヒア リング等も重ね13 回にわたり議論を行っ た結果、「医療事故に係る調査の仕組み等 に関する基本的なあり方」について概ね意 見が一致した。

・ 診療行為に関連した死亡事例(行った医療 又は管理に起因して患者が死亡した事例で あり、行った医療又は管理に起因すると疑 われるものを含み、当該事案の発生を予期 しなかったものに限る)が発生した場合、 医療機関は院内に事故調査委員会を設置す るものとする。その際、中立性・透明性・ 公平性・専門医性の観点から、原則として 外部の医療の専門家の支援を受けることと し、必要に応じてその他の分野についても 外部の支援を求めることとする。

・ 院内調査の報告書は、遺族に十分説明の上、 開示しなければならないものとし、院内調 査の実施費用は医療機関の負担とする。な お、国は、医療機関が行う院内調査におけ る解剖や死亡時画像診断に対する支援の充 実を図るよう努めることとする。この院内 事故調査の手順については、第三者機関へ の届け出を含め、厚生労働省においてガイ ドラインを策定する。

・ 第三者機関(医療事故調査・支援センター (仮称))は、1)医療機関からの求めに応じ て行う院内調査の方法等に係る助言、2)医 療機関から報告のあった院内調査結果の報 告書に係る確認・検証・分析、3)遺族又は 医療機関からの求めに応じて行う医療事故 に係る調査、4)医療事故の再発防止策に係 る普及・啓発、5)支援法人・組織や医療機 関において事故調査等に携わる者への研修 を行うこととする。

・ 医療機関は、第三者機関の調査に協力すべ きものであることを位置付けた上で、仮に、 医療機関の協力が得られず調査ができない 状況が生じた場合には、その旨を報告書に 記載し、公表することとする。

・ 第三者機関が実施した医療事故に係る調査 報告書は、遺族及び医療機関に交付するこ ととする。

―厚労省社会保障審議会医療部会(11 月8 日) の資料「医療事故に係る調査の仕組み等に係る論点」

・ 「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」のとりまとめを踏まえ、 医療の安全を確保するための措置として、 1)医療事故が発生した医療機関において院 内調査を行い、2)調査報告を民間の第三者 機関が収集・分析することで再発防止につ なげるための医療事故に係る調査の仕組み 等を医療法上に位置づけることとしてはど うか。

・ 対象事案が発生した場合、医療機関は、 1)遺族に説明し第三者機関に届け出なければ ならない、2)都道府県医師会、医療関係団 体、大学病院、学術団体等の外部の医療の 専門家に必要な協力を求め、速やかに必要 な調査を行う、3)調査結果を遺族に説明す るとともに第三者機関に報告しなければならない。

・ 医療事故調査に係るガイドラインについて は、厚生労働省において策定することとし、 日本医療機能評価機構で実施されている医 療事故情報収集等事業及び日本医療安全調 査機構で実施されている診療行為に関連し た死亡の調査分析モデル事業でこれまでに 得られた知見を踏まえつつ、今後、実務的 に検討を進めることとする。

・ 第三者機関が実施する調査は、医療事故の 原因究明及び再発防止を図るものであると ともに、遺族又は医療機関からの申請に基 づき行うものであることから、その費用に ついては、学会・医療関係団体からの負担 金や国からの補助金に加え、調査を申請し た者(遺族や医療機関)からも負担を求め るものの、制度の趣旨を踏まえ、申請を妨 げることとならないよう十分配慮しつつ、 負担のあり方について検討することとする。

―医療事故調査制度 今後の課題〜「第三者 機関」の組織のあり方について〜

・ 民間組織とすることが厚労省検討部会によ り明記されたが、細部は未定となっている。 日本医療安全調査機構(モデル事業として の実績あり)、日本医療機能評価機構(医 療事故情報の収集・分析において大きな成 果あり)をどのようにして新しい医療事故調査制度の中に組み込んでいくのか検討が 必要である。

―医療事故調査制度 今後の課題〜「第三者機関」の財源の問題〜

・ 第三者機関を民間組織として、これに国が 資金を投入するためには相当な理由が必要 である。現在のモデル事業(日本医療安 全調査機構)には国からの補助金が1 億 2,000 万円となっている(「事業仕分け」に より、かつて1 億8,000 万円あったものか ら6,000 万円減となっており、日本医師会、 各学会など医療界が補填している)。第三 者機関は都道府県に調査を委託するべきで ある(1 件に関し30 〜 50 万の資金補助等)。 病理解剖は意義が高いが、現在は病院負担 となっている。現実は病理診断に追われ、 時間的余裕がないことが実情である。

・ すべての調査を第三者機関でこなすことに なった場合、年間400 例を扱うとして約5 億円、800 例を扱うとして約8 億円とされ ている(日本医療安全調査機構の企画部会の試算)。

⇒国からの費用補助によって、様々な制約 や取り決めが示される恐れはあるが、基 本的な部分での国の負担は考えるべき。 制約だけして「負担は当事者」はあり得ない。

―医療事故調査制度 今後の課題〜医師法21 条について〜

・ 医師法21 条を変えるのは至難の技であり、 ここにこだわっては前に進まない。医療界 の自律的取り組みの中から、刑事・司法の 安易な介入を防げるという多くの意見を得 た。医療の未来へつなぐため、医師法21 条の改正を謳うべきだが、改正にこだわる ことなく「その在り方を問う」という表現 への展開を図ってもいいと考える。

―医療事故調査制度 今後の課題〜調査報告書の使われ方〜

・ 事故調査報告書の二次利用について、正当 業務で訴訟に問われる、報告結果が訴訟に 使われる、真実を語る(黙秘する)医師の権利は尊重されるべき、医療の枠外の使用 では訴訟制限をすべき等の意見があり、医 療提供側ではいまだ一致をしていない。し かし、調査結果の提供は医療の責務であり、 医療の枠内での処理である。医療事故は個 人の責任から組織での対応への展開を図る べきではないか。

2)診療行為に関連した死亡の福岡県医師会調査分析事業(福岡方式)

上野道雄福岡県医師会常任理事・日本医師会 勤務医委員会委員より、診療行為に関連した死 亡の福岡県医師会調査分析事業(福岡方式)に ついて、概ね下記のとおり説明があった。

診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事 業は、日本医学会基本領域の19 学会の共同声 明に基づき、中立で専門的な機関として、平成 17 年9 月1 日から日本内科医会が実施主体と なり実施(厚生労働省補助金事業)している。 平成17 年7 月より福岡地域がモデル地域とな った。当モデル事業は、診療行為に関連した死 亡について原因を究明し、評価結果をご遺族及 び医療機関に提供することによって医療の透明 性の確保と医療安全の向上を図ることを目的としている。

福岡県医師会は、医療の過程において予期し ない患者死亡や、診療行為に関連した患者死亡 の発生予防・再発防止が重要な課題であること から、医療の安全と信頼の向上を図るため、当 モデル事業を行っている。

これまで、当モデル事業への参画が大病院に 偏っていたが、県内の大学・病院協会の協力や 国立病院の経験を活かして、全ての医療機関が 診療行為に関連した死亡の調査分析事業に参画 できる体制を構築した。

福岡方式の実践結果と課題として、1)剖検の 取得が極めて困難であり、当該病院は困窮してい る、2)非剖検事例でも院内事故調査委員会の開催 を支援している、3)非剖検事例での審議は難しく、 専門委員の負担が極めて大きい、4)民事訴訟事例 等での意見書の取り扱い等があげられる。

福岡方式のまとめとして、1)当該病院に調査分析事業運営委員会を中心に専門医委員(医師 と看護師)を派遣している、2)調査分析事業運 営委員会の公的病院長が院内事故調査委員会の 委員長を務めている、3)院内事故調査委員会に 弁護士は出席せず、医療関係者だけで開催して いる、4)福岡県医師会の専門委員が報告書を作 成し、全委員の協議を経て、当該病院長に交付 している、5)調査分析事業運営委員会の規約等 に関する審議を経て、県内の多くの病院、医師 の協力体制を整えていく予定である。

【質疑応答】

(1)医療事故調査制度について

院内調査委員会と第三者による事故調査委員 会について整合性をとりつつ考えていく必要がある。

◆高杉敬久日本医師会常任理事―コメント

基本は、院内事故調査委員会であり、それを 受けて制度設計すべきである。第三者機関は院 内の調査の指針や更なる調査とすべきである。 相互の関係については、齟齬のないよう検討し ていきたい。

◆上野道雄福岡県医師会常任理事・日本医師会 勤務医委員会委員―コメント

第三者が入ることが重要である。いくつかの 医療機関の院内事故調査委員会の議事録を拝見 したが、第三者が入ることにより内容が劇的に変わった。

(2)医療事故調について

原因追及することが目的であり、外部の参加 者は医療者以外(患者側の弁護士など)の者は 入らないようにしてほしい。

医療事故調を制度化するなら、警察への届け 出をなくしてほしい。善意の医療行為による医 療事故を刑事事件として扱わないでほしい。医 師法21 条の改正もしてほしい。

難易度は高いが死亡までは予測しなかった手 術の場合、術者個人の責任追求に走らないよう にしてほしい。

事故調への届け出は義務化されるのか。

◆高杉敬久日本医師会常任理事―コメント

院内事故調査委員会の精度を高めて、外部に しっかりとした説明ができるという仕組みにし ていく為には、外部の者を加えないと逆にその 委員会が密室化する。制度をきちんと説明する ことが大切であると私は考える。

◆上野道雄福岡県医師会常任理事・日本医師会 勤務医委員会委員―コメント

福岡県医師会でも検討を行った。一番真摯な 忌憚のない議論を行う場合、やはり、医療者同 士の方がよい。福岡方式は、院内事故調査委員 会の審議に関しては、医療者だけで、顧問弁護 士も入れずに審議をしている。

(3)医療事故調査制度- 産科医療補償制度に関連して―

医療事故調査制度は、その目的を医療事故の 原因究明と再発防止として議論が重ねられてい るが、依然、医療者の責任追及に利用される可 能性について検討の対象となっている。

産科医療補償制度においても、制度の目的を 「児の救済」「医療事故(脳性まひ)の原因究明」 等としていたが、原因を分析した報告書が医療 者の責任追及として裁判の資料として利用され るケースが現実的に起こっている。

制度の運用には、「報告書の提出」と「責任 の追及」は切り離して考えられるべきであり、 安心して報告できる環境を整えることが制度を スムーズに運用するために重要である。医療事 故の報告の増加により、本来目的とする正確な 原因分析が行われることが医療水準の向上につ ながるものと考える。

◆高杉敬久日本医師会常任理事―コメント

調査結果を報告して、その報告書がどのよう に遺族に使われるか、訴訟制限をしろというこ とになるかもしれないが、医療の枠の中で処理 をするということは至難の業である。遺族にき ちんと説明することは、結果として責任追究の 矛先を収めることにつながると考える。

◆上野道雄福岡県医師会常任理事・日本医師会 勤務医委員会委員―コメント

この点に関しては高杉先生にお願いしたい。剖検がとれて、モデル事業に報告できるような 事例の対処は比較的容易であるが、剖検がとれ ない事例になると私たちの審議自体が、評価の 対象になってくる。剖検がとれない事例に関し ても、何らかのマニュアルを検討いただきたい。

(4)事故調査の報告書の交付義務について

今年5 月末に、厚生労働省の「医療事故に係 る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」 は、「医療事故調査に係る調査の仕組み等に関 する基本的なあり方」を取りまとめた。今後こ れに基づいて法案が作られ、国会に提出される といわれている。

この厚労省案では、院内事故調査報告書の開 示と第三者機関の事故調査報告書の遺族への交 付を義務づけているが、これではこの報告書が 訴訟の証拠として流用されるなど、民事・刑事・ 行政処分などの責任追及の道具にされている。

本来医療の中で行われる事故調査の目的は、 事故の原因分析と再発防止でありそのために WHO ガイドラインに則って、責任追及に使わ れてはならない。したがって遺族へ交付されて はいけない。

この点、今年6 月日本医師会の「医療事故調 査に関する検討プロジェクト委員会」の発表し た「日医検討委員会答申」では、院内調査機関・ 第三者機関とも、報告書の遺族への交付を義務 づけておらず、おおいに賛成する。

日本医師会においては、事故調の目的が、責 任追及ではなく再発防止である点をもう一度明 確にしていただき、その上で、調査報告書の交 付を義務付けない制度を作っていただきたい。

◆高杉敬久日本医師会常任理事―コメント

調査をして説明だけで済むとは思えない。し っかりと報告書を書き正々堂々と遺族に示すこ とが、我々医療者の務めだと考える。

◆上野道雄福岡県医師会常任理事・日本医師会 勤務医委員会委員―コメント

非常に難しい問題である。非解剖事例では、 私どもの審議結果が最終的なものとして病院長 に報告することになっている。

(5)医療事故調査制度に対する要望

本年6 月に日本医師会の「医療事故調査に関 する検討委員会」からの答申、「医療事故調査 制度の実現に向けた具体的方策について」の内 容で、医療事故調査委員会制度を進めて良いと考える。

まず、責任追及のためでなく、原因究明・再 発防止のための院内調査委員会での調査から始 めるのがいいと考える。厚労省が提案している、 第三者機関による調査委員会では、責任追及へ と進む可能性が高いとの指摘もあることから、 今回の日本医師会の答申を基本とした医療事故 調査制度の確立を望む。

◆高杉敬久日本医師会常任理事―コメント

院内事故調査委員会でしっかり行うべきであ る。都道府県医師会に相当な負荷がかかるが、 これを根幹に位置づけて取り組んでいくことに より、未来の医療を守ることに繋がる。

2. 新しい専門医制度について

小森貴日本医師会常任理事より、新しい専 門医制度について、概ね下記のとおり説明があった。

平成14 年4 月1 日付けの厚生労働大臣告示 により専門医広告が可能となった。広告可能な 医師の専門医資格は、現在55 である。公示さ れた広告は、医師の専門分野の情報提供にとど まり、臨床知識や技能レベルを表示するものではない。

専門医制度に関して、日本医師会は1)専門医 の評価・認定はプロフェッショナルオートノミ ーを基盤としてこれを行う、2)現行の医療制度 と整合性のとれた専門医制度とし、地域を診て いる、かかりつけ医を評価する、3)専門医制度 を医師の偏在是正を目的とすることにより、制 度自体をゆがめない、4)専門医のインセンティ ブについては慎重に議論する、5)専門医の認定・ 更新にあたり、日本医師会生涯教育制度を活用 するとしている。

医師の質の一層の向上及び医師の偏在是正を 図ることを目的として、専門医に関して幅広く 検討を行うため、厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」が開催され、 1)求められる専門医像、2)医師の質の一層の向上、 3)地域医療の安定的確保等について検討が行われた。当検 討会はこれまで17 回開催されている。

当検討会の報告書では、「専門医の認定・更 新にあたっては、日本医師会生涯教育制度など を活用」と日本医師会生涯教育制度の役割が強 調され、地域医師会等の役割についても、「専 門医資格取得後も、都道府県や大学、地域の医 師会等の関係者と研修施設が連携し、キャリア 形成支援を進める」と書き込まれている。また、 「中立的な第三者機関は、医療の質の保証を目 的として、プロフェショナルオートノミーに基 づき医師養成の仕組みをコントロールすること を使命とし、医療を受ける患者の視点に立って 新たな専門医の仕組みを運用すべきである」と 記載されている。

第三者機関立ち上げに向けての打合会(第1 回:平成25 年6 月13 日、第2 回:平成25 年 7 月11 日)を開催したうえで、平成25 年8 月 6 日、日本医師会、日本医学会、全国医学部長 病院長会議、四病院団体協議会、日本専門制評 価・認定機構の5 団体で、専門医の認定・評価 を担う第三者機関の創設に向け、第1 回組織委 員会を開いた。

組織委員会のもとに、「定款委員会:委員長 - 門田守人(がん研有明病院長)」、「役員選考 委員会:委員長- 跡見裕(杏林大学長)」、「財 務委員会:小森貴- 日本医師会常任理事」、「広 報委員会:池田康夫- 日本専門医制評価・認定 機構理事長」、「総合診療専門医に関する委員会: 吉村博邦―北里大学名誉教授」の5 つの委員会 を設置した。

総合診療専門医について、日本医師会は1)総 合的な診療能力を有することはすべての医師が 持つべき要件であり、地域医療の大半を支えて いる「かかりつけ医」がこの機能を担っている、 2)深い専門性を有したうえで、総合的な診療能 力を持ち、幅広い視野で地域を診る医師(かか りつけ医)こそが、住民のニーズに応えること ができる、3)かかりつけ医機能をさらに向上さ せるため、生涯教育制度を一層推進する、 4)地域によっては、プライマリケアを担当する医師 が特に必要であることをふまえ、これらの医師 の特性を評価することが妥当であるとしている。

かかりつけ医の社会的機能について、日本医 師会は、日常行う診療の他には地域住民との信 頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、 母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の 地域における医療を取り巻く社会的活動、行政 活動に積極的に参加するとともに保健・介護・ 福祉関係者との連携を行う。また、地域の高齢 者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医 療に理解を示すことが重要であるとしている。

【質疑応答】

(1)新しい専門医制度に関する意見(必要性について)

現状学会が認定する専門医制度は、ほとんど の領域において何ら齟齬なく経過していると認 識している。専門医の取得には経験と知識が必 要とされるが、それは専門の職能集団によって 統括管理されており、評価・認定されているも のである。このことについては、現在の専門医 を取得する医師側も、その技術や知識を享受す る患者側からも、その制度を疑問視する意見は 聞こえていない。専門医制度を運用する学会が 乱立され、その基準が統一されていないという 領域はごく一部であり、医師の専門性を問うの に、国民の視点が本当に必要であるかを論ずる べきである。

◆小森貴日本医師会常任理事―コメント

専門医の在り方に関する検討会において、新 しい専門医制度の必要性について会員約10 万 人の日本内科学会にヒアリングを行った。日本 内科学会の認識としては「評価・認定は必要」 であった。

アメリカにおいても、専門医が行う診療行為 をどう評価するかという議論は続けられてい る。また、反トラスト法、COI の原則からも、 専門医の評価を学会が認定をして、それを受け 入れるということでは、仕組みとして認めにく い。各学会を、他の医療者からみて評価をしな いと専門医の行う診療行為の評価は難しい。将来的には制度がしっかりと根付くことにより、 専門医の評価に発展していく。

国民の視点という点では、第三者機関には国 民の代表や、法曹の関係者は入らず全て医療者 となっている。現在、各種委員会等において、 そのような仕組み全体を外部評価委員会(仮称) で、評価するという議論を行っている。当委員 会には国民の代表や、法曹の関係者にも参加い ただいている。

(2)新しい専門医制度に関する意見(総合診療専門医について)

医師の偏在化が地域医療の継続を困難にして いるという視点から鑑みて、総合診療医の育成 は必要である。しかし、その専門医制度設立に ついては疑問を持たざるを得ない。そもそも「総 合」と「専門」という字句自体が相いれない要 素を持つものである。ひとつの領域のある一定 の知識・技術を獲得するだけでも、年単位の時 間が必要であることは言うまでもないことであ る。内科系や外科系といった大きな領域さえを 超越しての総合診療専門医はその存在自体が矛 盾性を含んでいる。「何でも診れる」というこ とは、「何にも診れない」ということに等しい。 総合診療医の中においての「スーパードクター」 や「神の手」は全く持って不要である。地域医 療を守るための総合診療医は必要であっても、 それはあくまでも、地域における領域別専門医 への橋渡しと考えるべきである。総合診療専門 医をどのようにして認定し管理するのかは、今 までそのような資格を持つ医師は存在しないた め非常に問題点が多く、また育成プログラムを どのように設定し、大学を含めた教育機関・医 療機関において、どのような育成を実践するの か極めて不透明な部分が大きい。

◆小森貴日本医師会常任理事―コメント

ジェネラル・フィジシャンあるいは家庭医に は古い歴史がある。19 世紀のイギリスにおい て「ジェネラリスト」が定義をされ、20 世紀 後半になると「家庭医」という概念が出てきた。 特に米国等では、その学会も成立し専門医の一 領域として認められるようになった。しかし我が国において、総合診療医、総合診療専門医と いう概念はご指摘のように明確ではない。

現在、年間120 万人の方が亡くなられてい るが、今後20 年、30 年、50 年と進むにつれ、 年間170 万人の方が亡くなると予測されてい る。このような社会を目前にして、どのような 医療提供体制がよいのか、様々な学会、団体と 議論を行った結果、「総合診療」という部門を 追及していく方々を評価してもよいという意見に達した。

したがって、いわゆるプライマリ連合学会が 示しているものではなく、様々な関連する諸学会 が連携をして育成プログラム等を構築していく。 「2 年後にこうである、それ以外ない」というも のではなく、常に進化し続けていくべきである。

平成27 年に初期臨床研修を修了し、平成29 年度から専門医のトレーニングを受ける若い人 たちに、どのような育成・評価をしていくかが 重要である。『「何でも診れる」ということは「何 にも診れない」』とは大変厳しい言葉ではある が、そのとおりである。能登半島北部が必要と する医療、北海道のある地区が必要とする医療、 今後莫大な高齢人口を抱える都心部が必要とす る医療等、地域の特性により様々である。地域 の人たちが求める医療にできるだけ、フィットしていこうと努力している方々を評価する道は あってもよいのではないかと考える。育成プロ グラム等についてはこれからの問題である。

閉会

小森貴日本医師会常任理事より、概ね下記の とおり閉会の挨拶が述べられた。

本日は、勤務医にとって喫緊の課題である、 医療事故調査制度、新しい専門医制度について ディスカッションをさせていただいた。

私が医師になったとき、開業医師は7 万人、 勤務医師は6 万人であった。現在、開業医は 10 万人、勤務医は20 万人である。医学部の 定員は最も少ない時より約1,400 名増加して いる。また、文部科学省は来年度の医学部定 員を70 名増やす予算を確保している。これか ら10 年、15 年経つと、開業医は11 万人、勤 務医は25 〜 26 万人になると予測されている。 日本医師会が壊れると思われる方もゼロでは ない。しかし、勤務医こそ日本医師会を運営し、 未来の医療をつくっていただきたいと私は思 っている。

勤務医に関する様々なご意見を日本医師会に お寄せいただきたい。そのご意見を謙虚に受け 止め、解決に向けて努力していきたい。

印象記

常任理事 宮里 善次

平成25 年11 月29 日、日本医師会館に於いて「平成25 年度都道府県医師会勤務医担当理事連 絡協議会」が開催された。

「医療事故調査制度及び新しい専門医制度」をテーマにシンポジウムが行われた。始めに日本医 師会担当理事の高杉敬久常任理事から「医療事故調査制度のその後の動き」と題して講演があった。

新たな大きい動きはないが、厚労省の「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」 では、事故調査の対象を「発生を予期しなかったものに限る」とし、「第三者に報告する」を「第 三者に届け出る」の表現に変えるとしている。

調査の流れでは、1)院内調査と2)第三者機関が調査を行うとしているが、専門性の観点から院 内調査を優先するとしている。また、院内調査の外部支援としては「医師会が前面に出て調整する」 としている。

第三者機関のあり方としては、独立性、中立性、透明性、公平性、専門性を有する民間組織「医 療事故・支援センター」を設置するとしている。

日本医師会は外部委員については専門医が望ましいと発言があった。

第三者機関が実施した医療事故に係る調査報告書は、遺族及び医療機関に交付することとする。

会場から報告書提出が裁判の証拠として使われている。特に産科における無過失保険で増える 傾向にあるので、報告書提出が方法論として良いのかどうか質問があった。

産科における訴訟ではほとんどが医療側勝訴となっており、きちんとした報告書がその根拠と なっている。医療側を守るのは「きちんとした報告書」である旨の発言があった。

また、その後に福岡方式と呼ばれる「診療行為に関連した死亡事例- モデル事業-」を発表され た上野道夫福岡県医師会常任理事は、解剖をした事故症例のほとんどが裁判にならないし、それ を基にした遺族側への説明に納得が得られる場合が多い。その満足度は7 割にも達する。是非解 剖はやるべきであると強調されていた。

最後に診療所や小病院で診療行為に関連した死亡事例が発生した場合、医師会を中心とした調 査委員会の設置と、解剖が出来るような医療機関の連携が必要であろうとの結論で終了した。

小森貴日本医師会常任理事から新しい専門医制度に関する経緯と基本的な考え方が述べられた。

新しい専門医制度が厚労省の管理下におかれないように、日本医師会はプロフェッショナルオ ートノミーを基盤として設計されるべきであると強調されたが、現在ある55 資格の専門医に「か かりつけ医」を加える為に、あらたな専門医制度をスタートさせる事は前途多難な印象を受けた。