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平成25年度 都道府県医師会
感染症危機管理担当理事連絡協議会

宮里善次

常任理事 宮里 善次

去る平成25 年11 月21 日(木)、日本医師会館において標記協議会が開催された。

日本医師会の横倉義武会長の代読として、小 森貴常任理事より概ね以下のとおり挨拶があった。

ご承知のとおり、新型インフルエンザ等特別 措置法が昨年の5 月に公布され、本年4 月に施 行されている。本措置法は、新型インフルエン ザ等の対策の強化を図り、発生時において国民 の生命及び健康を保護し、また国民の生活、経 済に及ぼす影響が最小となるようにすることとしている。

2009 年に流行した、インフルエンザ(H1A1) では、日本での死亡率が諸外国に比べてもはる かに低かったことが分かっており、これも皆 様の献身的な行動の賜であることを深く感謝 申し上げる。また万が一、新型インフルエン ザ等が発生した場合においては、流行の抑制 や国民の健康への影響を最小限に抑える為に、 診療に混乱を来さぬよう、発生に備えた取り組 みをこれまで以上に進めていく必要があると考えている。

特措法に基づき作成された新型インフルエン ザ等対策政府行動計画においては、新型インフ ルエンザ等の発生時においても医療提供を確保 する為、新型インフルエンザ等、患者の診療体 制を含めた診療継続計画の策定、及び地域にお ける医療連携体制を進めることが重要であると 記載されており、全ての医療機関において、診 療継続計画の作成が求められている。

改めて、本協議会にご出席いただき心から御 礼申し上げるとともに、本協議会が今後の新型 インフルエンザ等対策に役立つものになること を願い、挨拶とさせていただく。よろしくお願いしたい。

議 事

(1)新型インフルエンザ等対策特別措置法 に基づく医療機関の役割等について
内閣官房新型インフルエンザ等対策室企画官
三宅 邦明

新型インフルエンザ対策に関わる主な法令 は、平成10 年に作成された「感染症の予防及 び感染症の患者に対する医療に関する法律」や 昭和26 年に作成された検疫法、昭和23 年に 作成された予防接種法があり、これら3 つの 法律のみでは、新型インフルエンザ等の大流行 に伴う社会全体の混乱への対応が難しいことか ら、新型インフルエンザ等対策特別措置法が平 成24 年に公布されている。

特措法については、体制整備等として、国や 地方公共団体の行動計画の作成や、発生時にお ける特定接種の実施等が定められている。また、 新型インフルエンザ等緊急事態宣言が出された 際、「新型インフルエンザ等緊急事態」発生の 際の措置として、住民に対する予防接種の実施 や医療提供体制の確保等が定められている。

新型インフルエンザ等対策の基本方針として は、流行のピークを遅らせることで医療体制を 強化し、医療提供のキャパシティを超えないよ う、迅速な対策のための明確な体制を構築する ことである。そうすることで、患者数が増えて も、死亡率を抑えられると考えている。

特措法が想定している一般的経過としては、 第1 段階は海外で発生、第2 段階は病原性が明 らかになり国内に侵入、その中で病原性等が強 い恐れがある場合に、緊急事態宣言を出し、外 出の自粛や、住民への予防接種等の取り組みを 行っていただく。緊急事態宣言の要件として は、1 国内での発生、2 重症例が通常のインフ ルエンザにかかった場合に比して、相当程度高 いと認められる場合、3 疫学調査の結果、報告 された患者等に感染させた原因が特定できない 場合、もしくは患者等が不特定の者に対して感 染させる行動をとっていた場合その他の感染が 拡大していると疑うに足りる正当な理由のある 場合となっている。

新型インフルエンザ等対策政府行動計画の考え方の中でも、行動計画と基本的対処方針があ る。行動計画は閣議決定されており、新型イン フルエンザ等の発生前(平時)に政府、都道府県、 市町村が新型インフルエンザ等対策の実施に関 する計画を定めるとともに、病原性の高い新型 インフルエンザへの対応を念頭に置きつつ、病 原性が低い場合等様々な状況に対応できるよ う、対策の選択肢を示すものとなっている。基 本的対処方針については、専門家の意見を聞か ずに暴走することがないよう、基本的対処方針 等諮問委員会の意見を聞くこととなっている。 時間がない時は省くことも出来るが、なるべく 本委員会に意見を聞くこととなっている。

発生段階ごとの対策の概要として、海外発生 期、国内発生期、国内感染期、小康期に基づき、 対策の考え方、実施体制、サーベイランス・情 報収集、情報提供・共有、予防・まん延防止、 医療、国民生活及び国民経済の安定の確保毎に 対策を行っていく必要がある。しかし、2009 年の際もあったように、全ての地域がこれにリ ンクする訳ではなく、対策も変わってくる為、 それぞれの地域に合った取り組みを行っていただきたい。

特定接種については、本部長(内閣総理大臣) から厚生労働大臣に指示し、厚生労働大臣より、 登録事業者や都道府県知事、市町村長に対し指 示され、実施する。特定接種の定義としては、「医 療の提供」、「国民生活・国民経済の安定を確保 するため」に実施するもの、発生時に政府対策 本部が諮問委員会の意見を聞いて決定するもの なっており、0 〜 1000 万人の範囲で接種する こととしている。

医療体制に関するガイドラインとして、新型 インフルエンザの患者に対する治療を効率的・ 効果的に行うため、医療機関及び都道府県等関 係機関がそれぞれの役割を踏まえ、相互に連携 することとなっている。医療体制については、 海外発生期〜国内(地域)発生早期、国内(地 域)感染期の2 つに分けて考え、それぞれ定め られた行動計画に基づいて診療等を行うことが必要である。

(2)特定接種に係る医療機関の事前登録について
厚生労働省健康局結核感染症課
新型インフルエンザ対策推進室室長補佐
廣澤 友也

本説明については、厚生労働省健康局結核感 染症課新型インフルエンザ対策推進室室長の井 上肇氏が行う予定であったが、不在の為、同課 新型インフルエンザ対策推進室室長補佐の廣澤 友也氏から説明があった。

特定接種は、新型インフルエンザ等が発生し た場合に、医療の提供又は国民生活・国民経済 の安定に寄与する業務を行う事業者の従業員 や、新型インフルエンザ等対策の実施に携わる 公務員に対して行う予防接種である。

特定接種の接種対象業種と接種順位の考え方 としては、医療分野(接種順位1)、新型イン フルエンザ等対策の実施に携わる公務員(接種 順位2)、国民生活・国民経済安定分野(接種 順位3)に分けられる。

新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づ き、厚生労働大臣は予め特定接種の対象となる 事業の登録を行うこととされており、相当数の 事業者(100 万を超える事業者を想定)を登録 することが想定されている。登録については、 平成26 年度中にweb システムを構築する予定 であるが、行動計画における接種順位の基本的 な考え方を踏まえ、新型インフルエンザ医療等 に従事する医療関係者については、年内に登録 を開始することとなっている。

医療関係者の登録スケジュールとしては、11 月20 日に都道府県等説明会を開催したところ であり、12 月初旬に告示・登録に関する実施 要領の発出及び都道府県等から医療機関等へ登 録申請の周知、1 月中に厚生労働省への申請(病 院)、2 月中に厚生労働省への申請(診療所)、 3 月中(予定)に厚生労働省への申請(歯科診 療所・薬局・訪問看護ステーション・助産所)、 平成26 年度中にWeb システムによる登録の開 始となっている。

(3)医療機関における診療継続計画について
兵庫県医師会副会長 足立 光平

特措法の目的は、新型インフルエンザ等の流 行から国民の命や健康を守りつつ、生活や経済に 及ぼす影響を最小にすることとなっており、行 政機関のみでは困難であることから、指定公共 機関や指定地方公共機関の指定や厚生労働大臣 登録事業者の登録を行い、診療継続計画等の業 務計画を作成する責務を負うこととなっている。

診療継続計画とは、予め対処の方針を検討し て文章で記載したものであり、一般的には事業 継続計画(Business Continuity Plan)と呼ばれている。

診療継続計画を作成するメリットとして、特 措法への対応や院内感染の防止等があり、普段 の業務の見直しに繋がるものとされている。診 療継続計画作りの進め方としては、地域の行動 計画等、必要な情報を収集し、担当スタッフで 話し合う場を設け、自院の体制や優先診療業務 の選定等を検討するとともに、定期的な見直し を行うことである。

診療継続計画完成までの流れとしては、ステ ップ1 診療継続計画の作成準備、ステップ2 担 当者会議の開催、ステップ3 検討場面の設定、 ステップ4 各部門での情報収集、ステップ5 ま とめと文章作成である。

また、診療継続計画は難しいものではなく、 作成例を活用する等、自施設に当てはまらない ものを削除し、必要な言葉や内容に入れ替えて も良い。診療継続計画の全体構成としては、総 論、未発生期、海外発生期以降、地域連携の4 つに大きくに分けられる。

総論では、1. 基本方針、2. 本診療継続計画の 策定・変更・周知、3. 意思決定体制、4. 意思決 定に必要な最新情報の収集・共有がある。基本 方針では、地域医療における役割や新型インフ ルエンザを積極的に診療するのかしないのか等 を定め、優先すべき診療業務を考える必要があ る。本診療継続計画の策定・変更・周知では、 どのようなメンバーで本計画を作成、もしくは 変更するのか等を決める必要がある。意思決定 体制では、本計画のリーダーは誰なのか、不在の時はどのように対応するのか等を決める必要 がある。意思決定に必要な最新情報の収集・共 有では、変化する新型インフルエンザの情報を どこから集めるかということを事前に把握して おく必要がある。

未発生期では、1. 新型インフルエンザ発生 時の診療体制確保の準備、2. 感染対策の充実、 3. 在庫管理がある。新型インフルエンザ発生時 の診療体制確保の準備では、優先診療業務の決 定と流行への備えや診療に確保できる人員と対 応能力の評価、従業員の連絡体制や通勤経路に ついて把握しておく必要がある。感染対策の充 実では、感染対策マニュアルの整備や教育と研 修、特定接種への登録を行っておく必要がある。 在庫管理では、新型インフルエンザの医薬品、 感染対策用品の在庫について、確認しておく必要がある。

海外発生期以降では、1. 対策本部の設置、 2. 診療体制、3. 職員への対応、4. 地域/通院 患者への情報周知、5. 事務機能の維持がある。 対策本部の設置では、どのような状況になった 時に一連の対策を協議するのか等について決め る必要がある。診療体制では、外来における診 療方針や新型インフルエンザ患者、通常患者へ の対応等について決めるとともに、外来以外の 優先業務の決定等について決める必要がある。 職員への対応では、職員の健康管理と安全確保 及び職員体制の見直しが重要であり、職員の感 染予防策や感染した際の対応等について決める とともに、多くの職員が欠勤する状況でも柔軟 に対応する為に、定期的な話し合いの場を設け ることや未発生期に準備した内容の見直し等が 必要である。地域/通院患者への情報周知では、 通院患者に対する新型インフルエンザ等の情報 提供をどのように行うのか等について決める必 要がある。事務機能の維持では、継続して行う 優先度の高い事務作業の整理や、委託業者との 連携確認、業者連絡先リストの作成等を行う必要がある。

地域連携では、作成する際のポイントとし て、1. 地域で期待されている役割を明確にする、 2. 各地域の行動計画に対応する、3. 発生段階に応じた計画を検討する、4. 多くの担当者が話 し合う場を持つ、5. 流行時に優先すべき診療業 務と自施設の強みと今後の課題を事前に検討す る、5 つのポイントがある。

また、兵庫県の対策行動計画では、地域発生 早期、地域感染期、まん延期毎に医療体制(受 診の流れ)を定めている。

診療継続計画については、特措法との関係で 診療継続計画の作成が要件となっているが、難 しいものではなく、名簿や緊急連絡網等をまと めるだけでも大部分が完成する。また、本計画 の作成は普段の業務を見直す良い機会となり、 院内外の話し合いの場を持つことが非常に大事である。

新型インフルエンザ等対策は、地域における 役割の確認と施設管理者(トップ)による基本 方針と地域連携が不可欠である為、是非、先生 方のご協力をお願いしたい。

(4)事前登録に係る留意点について
日本医師会常任理事
(感染症危機管理対策室室長) 小森 貴

特定接種登録申請書(案)では、「業務継続 計画を作成していること」という欄がある。特 措法の第4 条第3 項に、登録事業者は、当該業 務を継続的に実施するよう努めなければならな いという責務を負うこととなっている。ただし、 提出は不要であり、提出されているかどうかの 監査を行うこともなく、罰則もないこととなっ ている。しかし、何でも良いということではな いので、先程足立先生からご説明いただいたこ とを基に作成をお願いしたい。我々は普段から 医療機関は公共性であり、社会インフラである ことを主張しており、そのような観点からも国 民の方々に新型インフルエンザ等疾患が万が一 流行した時には、その対策の責務を負い、直接 対応することが求められる為、先生方にはその 点についてご理解をお願いしたい。

また、眼科や皮膚科等の普段インフルエンザ の診断、治療等の医療に従事しない診療科につ いても、このような事態が起きた際には協力を お願いしたい。最悪の場合には、医師免許を持っている方全員にご協力をお願いしたいと考え ている為、医療機関全てに登録事業者しての手 続きを行っていただきたいと考えている。

質疑応答

<京都府医師会>

特定接種については、希望者に対して打つと いう認識で良いか。また、行動計画では、集団 接種のことが取り上げられており、保健所等が 中心となるようなことが書かれていたが、住民 接種になった場合でも個別の医療機関が対応す ることになるのか。診療継続計画は、今回配布 されたものが日医公式のマニュアルという認識 で良いか。各医療機関が個別に作成した診療継 続計画は、行政に提出することになるかと思う が、行政や医師会でどのように利用されるか教 えていただきたい。

<小森常任理事>

各医療機関が登録事業者として診療継続計画 を作成することは必要であるが、行政に提出す る必要はない。特定接種は、住民接種の体制を 確立することや新型インフルエンザ等に対する 医療体制を守るという観点から行われるものである。

<京都府医師会>

各医療機関が個別に診療継続計画を作成する と、統一感がないと思うが、行政や医師会等で 調整する必要はないか。

<足立先生>

先程の説明で地域連携を強調したが、本会で は本計画を出し合い、調整している。地域でそ のようなことを決められたら良いのではないか と考える。

<福井県医師会>

本県では、2009 年の流行の際に、学校の校 庭等を利用して医師会が対応した経緯がある。 今回については、自院での接種のみと受け取れ るがそのような行動計画場合は、地区医師会単 位での接種が可能か。

<厚生労働省>

特定接種については、基本的に登録事業者に て接種体制を整えていただくことを原則として いるが、特定接種登録申請書(案)の接種実施 医療機関の欄に、接種する機関を記載いただけ れば、まとめて接種することも可能である。

<小森常任理事>

2009 年の感染の際に、個別接種が原則とな っていることから、地域の医師会が学校等で集 団接種を実施しようと考えた時に、行いづらか った現状があった。それを踏まえ、昨年に診療 所等の届出を簡素化し、行政側が戸惑うことが ないように措置している。

<香川県医師会>

現在本県では、他県から医療機関が来て、風 しんワクチンを集団接種するということが行わ れている。集団接種を無制限に広げてしまうと、 地域の医療機関からは違和感がある為、何らか の制限を行って欲しい。

<小森常任理事>

今回のような特別な場合に限って集団接種を 原則とするということである。あくまで通常の 予防接種については、安全確保の観点から個別 接種が最善であると考えている。

印象記

常任理事 宮里 善次

平成25 年11 月21 日、日本医師会館に於いて都道府県医師会感染症危機管理担当理事連絡協 議会が開催された。

新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)の施行を受けて、沖縄県を始め各都道府県は 行動計画の策定に入っているが、今回は特措法に基づく医療機関の役割について説明があった。

医療提供者は特措法28 条に基づいた特定接種の重要対象である。政府の行動計画では年内に 対象医療機関の登録を開始し、登録に係るWeb システムを平成26 年度中に構築するとしている。 登録を急ぐ理由は、新型インフルエンザ等の発生時期が予測困難な為、事前準備としての意味合 いがある。医療機関の役割としては1)医療提供体制の構築、2)住民への予防接種、3)治療、 4)診療継続計画の作成である。

前回のメキシコ型ブタインフルエンザの流行時と違うのは、各医療機関(診療所も含む)に診 療継続計画の作成を促している点である。厚労省は「新型インフルエンザ等発生時の診療継続計 画作りの手引き」を発行しているので、参考にして頂きたい。

診療継続計画の作成は画一的にする必要はなく、各地域に合わせた形で作るのが望ましい。兵 庫県医師会は行動計画に合わせた形で作成した独自の診療継続計画を供覧し、作成時の重要なポ イントを示されたが、本文を参照して頂きたい。

また、前回の行動計画では日本全体が同時に動いたが、感染症は地域ごとのタイムギャップが ある為、基本対応は全県的に対処すると云うより地域ごとに対応して欲しい旨の発言があった。 沖縄県で云えば、那覇南部地区、中部地区、北部地区、宮古地区、八重山地区の各保健所、医師会、 県立病院が中心となって対応するのが現実的かつ機動性に富んだ活動ができる印象を受けた。

質疑応答の中では、各医療機関が作成した診療継続計画はどこに提出して、どこが管理するの かと云う質問が出たが、日本医師会の担当理事は地区医師会毎の管理が望ましいと云う答えであった。

沖縄県の新型インフルエンザ等対策行動計画は12 月に計画案が県議会に報告されて決定する ので、県庁のホームページでご確認をお願いしたい。