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午年に因んで

中須昭雄

沖縄県立中部病院
心臓血管外科
中須 昭雄

この原稿の依頼を頂いた時、始めは依頼相手 を間違えたのではないかと思った。しかし、し ばらくして来年自分が年男なのだという事実に 気が付き、軽くショックを受けた。あぁ、もう 来年年男なんだ。

36 歳。スポーツ選手であればピークが過ぎ、 引退を考え始める時期である。同年代の野球選 手が引退、というニュースはよく聞くし、私の 好きなアメリカプロバスケットボールNBA の スター選手である、同年代のロサンゼルスレイ カーズ所属のKobe Bryant もそろそろ一時期 のような得点能力が落ち始め、怪我が多くなっ てきた。スポーツでは、これ以上いくら練習を 積んでも体力がついていかず、自分の限界をい やがおうでも知る事となる年齢。

医師はどうであろうか?心臓血管外科医を志 し3 年が経ち、素晴らしい上司に恵まれ、世間 一般の若手心臓血管外科医に比べれば多くの手 術を執刀させていただき、様々な経験をさせて 頂いているが、まだまだピークなどというもの には程遠く、スタートラインからやっと飛び出 したくらいでしかない。

医師、特に外科医がいつ引退を考えるか、自 分のピークをいつ感じるかは私には定かではな い。外科医は体力(もちろん体力は外科医とし て大事なファクターではあるが)よりも技術や 考え方、経験に裏打ちされた技術で腕を上げて いく職業であるため、もちろんスポーツ選手に 比べ引退時期は大分先であるだろうし、根本的 に比較は出来ないであろうが、同年代のスポー ツ選手がどんどん引退していくこの年齢に、今 の自分の立ち位置と彼らとを比較して少し焦り を感じてしまう。彼らは同年代にして何かしら の歴史を残し、人に感動を与え、仕事に一区切 りを付けている。では、自分はどうだろう?まだ何かを達成した訳でもなく技術も未熟。そし て未来へ対する漠然とした不安。このままで本 当に先輩方のような心臓外科医になれるのだろうか?

最近、4 人目の子供が産まれた。前回執筆さ せて頂いた時は主に子育てについて書かせてい ただいたが、さらに我が家はひっちゃかめっち ゃかとなっている。私は家にいない事が多いの で、妻一人にいろいろな面で大きな負担を与え てしまっている。世間ではbig daddy なるテレ ビ番組で旦那がクローズアップされているよう だが、それは我が家では完全に逆であって、正 しくは“big mammy”である。

この四人の子供達と、子育てに奮闘をしてい る妻を見るたびに、私は自分に言い聞かせる。 お前はまだまだこれからだぞと。同年代のスポ ーツ選手のように、自分が納得する外科医とし ての人生を歩み、やりきって引退が迎えられる よう今の気持ちを忘れず進んで行こうと。彼ら は自分の好きな事がこれ以上出来なくなるが、 自分はまだまだ楽しめるのだと。

36 歳。ある人にとっては人生の一区切りで あり、ある人にとっては分岐点となる。そして 私にとってはまだまだ始まりに過ぎない。そし てこれからをどう過ごしていくかが、今後の人 生を左右するんだろうなぁ。そんなことをふと 思った2013 年、年末であった。