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“フィレンチェで考え
そのごのご”(二)

喜久村徳清

三原内科クリニック 喜久村 徳清

小説「日蝕」(参考1)は学士論文を書き終 えたばかりの巴黎パリ 大学の神学徒が、1482 年初 夏、書状をたずさえルネッサンスの嵐が吹きすさぶ 中世仏稜フィレンチェの街へと亜力伯アルプスを越えて ヒトカチ にて旅立つことから始る。天使のような無垢の 少年ジャン、異端の聖ドミニコ派僧侶、人里離 れた洞窟で求道者の雰囲気タダヨう老錬金術師ピエェルの業、 賢者ケンジャの石、 クライマックスの日蝕の 日に登場する両性具有者アンドロギュヌス、 異端審判、魔女狩り、 焚刑フンケイショ、難解な文体を読み終えた感動は、主 人公が研究室に戻って蒼空ソラを見上げ回想する場 面の描写にも共鳴して、私の旅の契機きっかけの一つに もなり、本誌表紙写真の高揚した説明(参考2)ともなった。(写真1)。

ガリレオの業跡の新発見が今世紀に入ってもな されている(参考3)。古代の占星術はガリレオの 科学的発見により神話の領域へと追いやられてし まっているが、我々はおのれの脳で理解しうることし か理解できない。ニュートンの科学的思考は “引 力は重力に比例し距離の二乗に反比例して減弱する” と表現されなければ万有引力の法則の発見の 説明とはならないという。「リンゴが木から落ち る」比喩は文学的、あまりにも文系的過ぎた表現 であって科学の専門家にとっては理解し難いこと であり、これは“現代の神話”、伝説にも等しいという。

写真1

写真1
フィレンチェ市街のズームアップ写真。
小高い丘に囲まれ、ミケランジェロ広場より写す。

☆☆

科学技術が進み興味ある専門分野の情報が豊 富にわかり易く、至極たやすく手に入るようにな ってきた。私は今の時代に在って宇宙の始まり、 生命の誕生から宇宙の死に至るまでを識ること ができる。伝えられるところによると地球から みる宇宙の渚には毎日3 万トン、小さいもので 径0.4cm のすい星(流れ星)が辿り着き、これ は0.01mm3の粉末が地球の1m2の表面に毎日1 個の割でシャワーのように降り注いでいる計算 となり、さらにすい星には生命に欠かせない(原 始地球にはなかった)必須アミノ酸グリシンが 含まれているという(小惑星「イトカワ」から 日本初の宇宙探索衛星ハヤブサが持ち帰った微 粒子1,500 個の分析から初めて解った)。

大昔、数千年〜数万年来、昔人が暗黒の闇夜 で天空を仰ぎ見、そして満天の星と流星群に感動し、星に夢を託して祈った行動 、昔人が脳内で直感的に感じた真実(真理)であって、私 達人類や生命の起源が宇宙のかなたよりもたらされたとするこの現代の専門家群の実証は、 所詮しょせん 、昔人と現代人との認識は(が)本質的には変わりのない こと・・を示していることで、その 事実を知ることは感無量なコト極マリナイ。

☆☆☆

1940 年製作、ピノキオ童話のアニメ映画の その主題歌は「星にねがいを」。カクして、「星 の王子さま」、「鉄腕アトム」、宮沢賢二の「銀 河鉄道の夜」の世界がみえてくる。しんわはひ とにかんめいをあたえている。ますますしんわ にはいっていきたい。いけない。

人生をいきなくては。人生にかしがある。

写真2
教会内部の構造。奥が腰掛のある礼拝堂。

写真3
サンタ・クローチェ教会内に在る
ガリレオ・ガリレイの眠る墓所

サンタクローチェ教会の広場は前日、団体旅 行の解散場所となった所だが足をのばし、内部 から写真を撮った(写真2)。両側壁面を背に して墓所やモニュメント、肖像画があり、礼拝 堂の造りは奥にみえる。

サンタ・クローチェ教会内のミケランジェロ、 ガリレオ、ロッシーニ、マキャベリの墓、ダン テのモニュメント等、イタリア人偉人の眠る墓 所をみていると、日本のお寺参りと似ていると 思ったが、とりわけガリレオの墓所前に献灯 (蝋燭ローソク)が多かった(写真3)。

メメントモリ(らてんご)。キリスト教社会 は死後の復活を渇望して天国への道をリアル に、ディープに信じる。死をオソれない。

旅を終え歩かぬ日々の続いた後、両足底部の 拇指のつけ根から薬指にかけて水泡ができた。 歩き続ければ足まめになったであろうが、痛み で歩くのもやっとであった。シカして思ふ。

あるこう。あるこう。まえへすすもう。

☆☆☆☆

免疫学基礎研究者が2 千年以上も前に書かれ た「黄帝内経」の中の衛気・・営気・・ は、現代免疫 学の「自然免疫」と「獲得免疫」に該当する(参考4)という。解明可能な分析技術を豊富にも っている現代人の新たな研究課題ともいう。解決されれば昔人、神話の時代の先人の正当な評 価が可能となる。神話の世界の時代でキリスト が生まれ、古典復興、ルネッサンス、コロンブ スは1492 年大陸を発見、自然科学の芽ばえ、 そして今世紀に入って科学の世紀を謳歌してい る。インターネット、EBM、ゲノム研究、遺 伝子診断、ロボット手術ダヴィンチ、ips 細胞、 ビッグデータとオピニオンリーダー、iPad、そ して「紙の書籍を自炊する」(参考5)ことも 可能な時代になってきた。わかりやすく簡明に その解説をしてくれる。

現代の神話を聞いている。あくなくしんわをきける事はさいわいなことである。

(9 月30 日記)

参考1
 平野啓一郎「 日蝕」新潮 1998年8月号(第120 回芥川賞受賞)

参考2
 フィレンチェ・ドゥオーモ(Duomo)
 沖縄医報 平成24 年11 月号表紙の言葉

参考3
 ガリレオ自筆の絵発見「星界の報告」特別な一冊
 沖縄タイムス 2007 年3 月29 日

参考4
 高橋秀実 免疫と漢方:黄帝内経に啓示された古代人の智慧
 日東医誌 64(1)1-9、2013 年

参考5
 篠原直哉 IT を使いこなす? 第7 回沖縄県女性医師
 フォーラム 県医師会館3F ホール 2013 年7 月20 日