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大学医学部女性医師支援担当者連絡会

銘苅桂子

沖縄県医師会女性医師部会委員
銘苅 桂子

去る9 月27 日(金)日本医師会館に於いて「大 学医学部女性医師支援担当者連絡会」が開催さ れ、今回は琉球大学医学部附属病院から女性医 師支援の先生も含め計4 名で参加した。協議会 では、日本医師会の女性医師支援センターの取 り組みや特徴的・先進的な女性医師支援を行っ ている全国の大学を代表して、3 大学(1)東北 大学、2)岐阜大学、3)九州大学)より発表が行 われた。以下に会議の模様を報告する。

挨 拶

日本医師会長 横倉 義武

日本医師会では、平成18 年より厚労省の委 託事業として、日本医師会女性医師支援センタ ー事業を実施し、就業継続の支援をはじめとす る多角的な女性医師の支援を行って参った。な かでもこの事業の中核である日医女性医師バン クは、平成19 年1 月の開設以来、今年で7 年 目を迎えたが、全国各地に常駐するコーディネ ーターの尽力と皆様方の協力により、先月末までの就業実績は366 件と順調に運営をしてい る。引き続き、皆様方との総合理解を更に深め、 ご協力をいただきながら本事業の一層の活性化 を目指す所存である。全国各地での情報交換を 目的とした女性医師支援センター事業ブロック 別会議も今年度で5 年目を迎え、全国6 ブロッ クでの開催を予定している。回を重ねるにつれ、 各医師会での女性医師支援の取り組みが活発に なり、それに加え、各大学での取り組み事例も 多々報告いただくようになってきた。

そこで本日の連絡会では、日本医師会での女 性医師支援に関する取り組みを紹介すると共 に、各大学における女性医師支援や男女共同参 画の取り組みに関する情報を全国で共有してい ただくことを目的に、3 つの大学に取り組み事 例の発表をお願いしている。出席の皆様には、 是非この機会を情報交換の場としてご活用いた だきたい。

女性医師の活躍ならびに男女共同参画の推進 は、医療の望ましい発展の為に必要不可欠であるため、日本医師会として、その実現のため真 摯に取り組みを進めて参る所存である。今後と も一層のご協力をお願いしたい。

日本医師会女性医師支援センター長 羽生田 俊

本日は、全国各地より多くの大学関係者に参 加いただいた。この様な機会に是非多くの大学で の取り組みについて情報を交換、共有し、今後 の女性医師がますます活躍できる場を広げてい ただき、働ける職場環境づくりに尽力賜りたい。

先に国連で安倍総理が演説をされたが、これ からの日本は「女性」にしっかりと良い日本を 作っていただく旨の挨拶を行ったとのことであ る。総理自身、女性の力に大きな期待をしてい る表れだと思う。

日本医師会としても、政府に負けず女性医師 がしっかりと働ける職場環境作りを支援して参 りたいと考えているので、今後ともより一層の ご理解とご支援をお願いしたい。

議事1

「明日の医療は貴女が創る」
 ―日本医師会の女性医師支援に関する取り組みについて―
 日本医師会常任理事 小森 貴

日本医師会女性医師支援センターでは、すべ ての女性医師の活躍を支援すべく各種事業を展開している。

1. 日本医師会女性医師バンクでは、平成19 年 1 月の開設以降、平成25 年8 月末までの就 業実績件数は366 件(内訳:就業成立349 件、 再研修紹介17 件)である。民間業者とは異 なり、現役医師が相談・マッチングに応じて おり、すべて無料の対応である。

2. 「医学生、研修医等をサポートするための会」 については、都道府県医師会や学会・医会等 との共催により、年々開催箇所数が増加傾向 (H23:57 回、H24:60 回)にある。本講習 会等を通じ、医学生や若い医師がキャリアを 中断せず就業継続できるよう、多様な医師像 のモデルを提示いただいている。

3. 女性医師支援センター事業ブロック別会議では、本センターと地域との双方向による情報 交換を目的に全国6 ブロックで会議を開催し ている。九州ブロック会議は、平成25 年12 月8 日(日)鹿児島県医師会館で予定されている。

4. 医師会主催講演会等への託児サービス併設促 進と補助については、育児中の医師の学習機 会の確保を目的として、各医師会が主催する 講習会等への託児サービスを併設する費用を 補助している。平成24 年度は23 医師会で 利用があり、284 人の子どもが利用した。

5. 「『2020.30』推進懇話会」については、指導 的立場、意思決定機関への女性の積極的参画 を目的に、女性医師会員に日医の組織・運営・ 活動内容に理解を深めていただき、将来日医 の活動への参加を働きかけるものである。年 度内に2 回懇話会を予定している。

6. この他、本日開催の「大学医学部女性医師支 援担当理事連絡会(9 月)」や今年度再開し た「女性医師の勤務環境の整備に関する病院 長、病院開設者・管理者等への講習会(各県 実施)」、全6 ブロックで実施されたブロック 別会議の内容を全国規模で情報共有する「女 性医師支援事業連絡協議会(2 月)」の開催 等がある。

7. また、女性医師支援における広報活動の一環 として作成された冊子「女性医師の多様な働 き方を支援する」や「キャリア支援のための DVD」、各種支援情報を掲載した「女性医師 支援センターホームページ」等がある。

その他、日本医師会では国への働きかけとし て、1)「臨床研修中の産休・育休の規程の整備」 について、産休を含めて延べ90 日間の研修の 休止を厚生労働省の省令に明記させ、臨床研修 中の妊娠・出産・育児等による中断についての ルールを明確にしてもらった。また、2)「医療 機関での短時間勤務正職員制度の導入」につい ての支援策を要望し、平成20 年度診療報酬改 定の入院基本料等加算の施設基準等において、 短時間正規雇用の医師の活用が算定条件に加え られた。3)「日本医療機能評価機構の医療機能評価項目」に、「ゆとりある勤務体制」「子育て しながら勤務できる支援体制」「休業後の再就 業を支援する体制」の要望を行い、平成21 年7 月運用開始の病院機能評価統合版評価項目V6.0 より項目に加えられた。4)防災・災害対策計画 および復興計画などの政策決定過程において男 女共同参画の視点が反映されるよう要望を行 い、政府から積極的に取り組むとの説明を受け た。5)医学教育モデル・コア・カリキュラム- 教育内容ガイドライン- に「男女共同参画やワ ーク・ライフ・バランス」の導入促進を図った。

議事2

取り組み事例発表

特徴的・先進的な女性医師支援を行っている 全国の大学を代表して、3 大学(1)東北大学、 2)岐阜大学、3)九州大学)より発表が行われた。

1)包括的女性医師支援戦略 ―東北大学病院―
 東北大学加齢医学研究所老年医学研究分野
 助教 海老原 孝枝

本大学病院では、院内保育園(民間委託)、 病後児保育のハード面の支援に加え、育児時間 短縮勤務医員制度のソフト面の支援を加えた包 括的女性医師支援戦略を展開している。また、 周辺サポートとして、駐車許可証の優遇発行や 勤務証明証のEASY 発行、宮城県医師会女性 医師支援センターと連携して、各種支援を得て いる。

なかでも育児時間短縮勤務医員制度は、大学 病院の人事組織の構成上、医員(非常勤職員)、 研究生に若い医師が多いことから妊娠中に契約 更新時期が挟まれた場合、医員辞職、結果とし て研究生(学費払い)となり各種制度が受けら れないことがある。また、研究生の身分では学 生扱いとなり保育園の入所も難しい。さらに、 研究生は通常の臨床業務や研究業務を課せられ る一方、アルバイト収入に頼っており、給与補 償も無く、社会保険制度費用や研究生として所 属するための学費の支払いも必要である。その ため、医師と家庭の両立の難しさから中断離職 するケースも多い。これ等の支援を行うべく、新たな勤務体系を創設したものである。本制 度では、身分が医員(時間雇用医員)のうち、 小学校就学前の子を養育する方を対象に、週 30 時間を上限とする勤務時間で、給与は時給 1,405 円換算としている。宿日直勤務は免除願 いを届出たものは必ず免除し、超勤勤務も原則 命じないこととしている。ここ数年15 人前後 の利用があり、4 年以上利用している方もいる。

本大学の総医師数における女性医師の割合は 平成20 年度を境に、年々増加傾向にある。また、 医局員の構成割合も助教、講師、准教授も年々 増加している。女性医師支援環境整備は、一定 の成果を上げてきたものと考えるが、今後は就 学時以降の支援拡充や高齢化社会を見据えた介 護への応用拡充も必要だと考えている。

2)よりよい男女共同参画を目指して

 岐阜大学の取り組み
 岐阜大学大学院医学系研究科皮膚病態学講座
 教授 清島 真理子

岐阜大学医学部附属病院女性医師就労支援の 会は、2009 年10 月、女性医師のキャリア形成支 援を目的に発足した。発足に先立ち実施したア ンケート調査から得た意見▽先輩女性医師の経 験を聞きたい▽ロールモデルが少ない▽ワーキ ングシェアは一つの解決策だが特定の専門科で は非現実的▽保育所等の施設整備が急務▽未だ に男尊女卑的な態度がある▽周囲の無理解▽夫 が非協力的、男性医師への教育が必要- 等を参考 に、会としての方向性を、1)保育所、施設、勤務 体制の整備、2)先輩女性医師との交流会、 3)男性医師、医学生との交流を柱に活動を開始した。

就労環境への意識改革を図るべく、女性医師 を取り巻く現状や諸問題の解決に向けた様々な テーマで講演会を開催。また、女子医学生と若 手女性医師との意見交換会、職員の子供対象の 職場見学を兼ねたキッズ・サマー・ウインター・ スクール。更には、M1・M4 学生全員を対象と したキャリア教育や女性医師問題の講義を行っ ており、医学教育の中からの意識改革をめざし ている。とりわけ、M4 学生には臨床実習入門 の中で「キャリア形成を考える」講義を行っており、「専門医制度」「ワーク・ライフ・バラン ス」「女性医師問題」を課題にグループ討議を 行っている。討議では、キャリアプランの形成 や出産間近の女性医師を例に挙げ、1)復帰に向 けて準備すべきこと、2)復帰後の起床から就寝 までのスケジュール、3)夫はどの様に協力すべ きか、4)上司、同僚はどの様に配慮をすべきか 等、考える機会を与えている。

女性医師がキャリアを決定する最大の原動力 は本人の意思・プロフェッショナリズムである。 自らのキャリアパスを想定し、自力でハードル を乗り越えていく力・たくましさを、医学教育 の中で植え付けなければならない。今後の医学 教育で重要な点は、男性医師も含め医療界全体 の中で女性のキャリアに対する理解と、女性医 師に対するキャリア教育、プロフェッショナル 教育だと考えている。

3)より良い男女共同参画を目指して
 九州大学の取り組み
 九州大学大学院医学研究院保健学部門
 臨床研究支援看護学 教授 樗木 晶子

九州大学では、やめない支援・働ける支援・ 戻れる支援への取り組みとして、平成19 年度 から3 年間、文科省の補助金を活用し、女性医 療人きらめきプロジェクトを展開した。その後 は、九州大学病院独自の取り組みとして、同事 業を継続している。通算7 年目を迎え、病院長 や上司の意識改革にも繋がっている。本事業を 通じて延べ60 名が短時間勤務で就業を行い、後 に10 名がフルタイム職への復帰を果たした。ま た、9 名が専門医などを取得している。この他、同プロジェクトでは、 1)育児支援、2)ライフステージに応じた教育プログラム支援、 3)管理者への啓発講演会、4)学生への講演・交流会、 5)各種行事や取り組みの情報配信、 6)きらめきスタッフによる成果発表会を行っている。今後は この様なプロジェクトを他の教育研究機関や研 修指定病院でも取り組んで欲しいと願っている。

また、大学全体の取り組みとしては、女性研 究者への研究補助者措置制度、若手研究者支援 (国際学会参加に対する支援)、さらに、教員が 出産・育児・介護に係る長期休業を取得する場 合に、代替教員を中長期的(3 〜 5 年間)に雇 用する制度を導入しており、休業取得をしやす い就労環境整備や部局の教育研究業務への影響 の軽減、優秀な人材の雇用促進、代替教員のキ ャリア保持にも繋がっている。

質疑応答・総合討論

質疑応答・総合討論では、時短勤務からのキ ャリア形成支援、終夜保育の問題点、各大学に おけるキャリア教育のアプローチ、ワーク・ラ イフ・バランスの充実強化、様々なバックグラ ウンドを持った医師に配慮した新専門医制度設 計等について活発な質疑応答が行われた。

閉 会

最後に、小森貴日本医師会常任理事より「み んなの力で、明日を創っていきたい」と挨拶し、 本協議会を終了した。

引き続き、会場を移動して茶話会が開かれ、 多くの大学部関係者が交流を深めた。

印象記

沖縄県医師会女性医師部会委員 銘苅 桂子

女性医師支援について報告された東北大学、岐阜大学、九州大学の取り組みはどれも素晴らし い内容で俄かに信じがたいほどでした。院内保育などのハード面、短時間勤務などのソフト面、 専門医取得などのキャリア教育や学生への教育に至るまで、まさに必要と思われることをとても 細やかに対応されていました。私自身は、育児をしながら日々の診療に追われており、少なくと も私の属する産婦人科医局が女性医師にとって働きやすい環境になるよう手の届く範囲で努力は してきたつもりでした。しかし、他科の現状はほとんど情報を得る機会がなく、他科の女性医師 が何を求めているのか全くわからない状況でした。正直言って、どうして大学全体としての取り 組みが可能だったのか、思い切って懇親会で質問してみました。そうすると開口一番、「先生、そ れはトップダウンですよ!」の声。確かに、岐阜大学と九州大学の演者は教授であり、東北大学 と九州大学は女性医師支援モデル大学として文科省から外部資金を得ていました。そして、女性 医師支援専任の医師がいる(!)、または担当講座がある(!!)ということが非常に大きいとの ことでした。トップの意識改革と、そして女性医師自身がリーダーになるという意識改革も必要 だとも述べられていました。医師に限らず多くの女性は「リーダーを目指すことに自信がもてない」 「自分でキャリアビジョンが描けない」「目指すべきロールモデルがいない」というような理由から、 そもそもリーダーになろうと思わない女性が多いといわれています。家庭や育児と仕事の両立で 疲労困憊な上に、社会で戦っていく余力はないというところが本音かもしれません。

先日、2 つの女性の会に参加する機会がありました。一つ目は琉球大学の男女共同参画室のも とに設置された「うない研究者支援センター」の企画した「ゆいカフェ」です。女性研究者間の 情報交換や交流を目的にランチをとりながら様々な意見を交わしました。他学部の女性教授、准 教授など大学で女性リーダーとして頑張っている先生方にお会いすることができ、非常に勇気づ けられました。もう一つは、琉大附属病院女性医師会「女医ふる会」です。産婦人科医局の女医 グループが発起人となって、初めての琉大女医会が実現しました。やはりロールモデルが存在し ない、この先のキャリアが描けない、大学で頑張っていくことの自信がない、といった声が聴か れました。しかしそこで感じたのは、それぞれの科、世代、立場によって悩みは尽きないものの、 皆とてもイキイキとしている!ということでした。この中からいずれそれぞれの科のリーダーと なっていく人が現れたとき、私がゆいカフェで感じたように、科が違っても先輩医師がイキイキ と働く姿、語る姿はやがて若手医師の道になるかもしれない、と感じました。科を超えた女性医 師同士のコミュニティーから発する生の声を大事に拾いあげていける会になれればいいと思いま す。12 月には県医師会女性医師部会と合同で医学生対象にキャリアプランの講義も予定されてい ます。今回の各大学の女性医師支援の取り組みを参考に、琉大附属病院の女性医師支援につなが っていければいいと思います。

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