災害医療委員会委員長 出口 宝
T.はじめに
平成25 年8 月23 日(金)に標記訓練が沖 縄県知事公室防災危機管理課の賛同のもとに陸 上自衛隊那覇駐屯地体育館を会場として開催さ れました。本訓練は本年4 月に参加した同研 修に続く、災害発生時の初動対処図上訓練とな りました。本会は沖縄県地域防災計画において 県との間に救護協定を締結しており、災害対策 基本法ならびに国民保護法における指定地方公 共機関であることから参加についての依頼があ り、小職と事務局業務1 課職員が参加しました。
U.訓 練
1.目的と参加機関
目的は、「県内発生の大規模地震及び津波を 想定した災害対処図上訓練を実施し、発災後 の行動等について関係機関の相互理解を促進し て、協同対処能力の向上を図る」とされていま した。訓練は図上訓練とその後の研究会の2 部 構成となっていました。参加機関は沖縄県地域 防災計画において、防災関係機関として示され た機関等となりました。参加形態はプレイヤー として自衛隊の準備する図上訓練に参加する形 態と、オブザーバーとして見学研修する形態に 分けられていました。今回は発災後6 時間まで の超急性期での対処であることから、プレイヤ ーに関しては県、県警察本部、自衛隊、第11 管区海上保安部、総合事務局、沖縄気象台、一 部の市町村と消防、沖縄電力、沖縄ガス、西 日本高速道路、NTT 西日本に限定されており、 本会ら他機関はオブザーバーとして見学研修し た後に研究会へ参加しました。参加規模はプレ イヤーとして21 機関87 名、オブザーバーと して24 機関65 名の計45 機関152 名となりました。
2. 訓練
会場となった陸上自衛隊那覇駐屯地体育館に は、ステージ上に統括本部とフロアーにプレイ ヤーとして参加する各機関のブースが設けられ ました。各ブースは実際の災害発生時における 各機関各々の対策本部を想定しています。
図上訓練内容は、災害設定として沖縄本島 北西部を震源とする地震が(M8.2)発生し那 覇市で震度6 強を観測の時点から訓練開始。 1)被害状況付与〜受領:自衛隊が市・機関・ 企業等のプレイヤーに電話、要図、テレビ放 送等を通じて被害状況を付与。2)状況の把握: 付与された被災状況等を地図や表に展開して 整理、県に報告、3)対応行動の検討:独自に 行う対応行動の検討。4)情報一元化:県(知 事公室防災危機管理課)は被害状況や防災関 係機関の行動を集計ボードや地図に展開して 視覚化、主要な事象は時系列で進捗・経過を 管理。5)県の対応検討:県としてどのように 対応するかを検討整理、当面のやるべきこと を規定・記録。6)合同協議の実施:発災2 時 間後と5 時間後に県が主宰し、集約された被 害情報を前提に合同協議を行い、組織間で必 要な調整事項を整理・確認し相互理解、併せ て各機関等が専門的な見地から能力や可能な 対応行動等について提示して相互理解を促進 する。このような予定となっていました。
各機関のブースは、情報が入り被害が解明 されるたびにその対応に追われている様子で した(Fig.1 〜 3)。発災5 時間後、県対策本 部ブースで開かれた合同協議では各機関から 各々の報告が行われました(Fig.4)。県の報 告の中で、多数の救助要請に対してDMAT を 派遣、負傷者が県立北部病院に1,733 名、県 立中部病院に6,129 名、県立南部医療センタ ーに2,764 名が搬送されたとの報告が同協議 の場で報告されていました。電力、道路、ガス、 水道などライフライン関係機関からは被害状 況と復旧に努力するとの旨が報告されていま した。予定された時刻となり本図上訓練が終 了しました。
Fig.1 訓練中の各自治体ならびに各消防本部のブース。
Fig.2 付与された被災状況等を地図や表に展開。
Fig.3 情報は時間軸にそって整理し県に報告。
Fig.4 県対策本部ブースでの合同協議。 正面( 写真左) にスクリーンが2 つ、その前に沖縄県地図を展開し、最前列はコの字型に県、総合事務局、沖縄気象台、県警本部、陸上自衛隊、海上保安本部、沖縄電力、沖縄ガス、西日本高速道路、NTT 西日本、その後方に各参加機関が着席。
3. 研究会
図上訓練終了後、引き続き訓練の振り返りを 含む研究会となりました。各機関共通の意見と しては「情報把握と共有、活用の難しさ」、「資 源の活用の困難さ」、「地域防災計画通りにいか なかった」、「図上訓練では出来たが現実では無 理」などの意見が出されました。一方では「ヘリコプターによる上空からの情報の有用さが認 識できた」、「今後さらに有効なヘリ運用の検討 が必要」、「普段からお互いの資源の情報を共有 するべき」、「各機関の連携が重要である」、「県 から各機関へ情報を伝達する方法の検討が必 要」などの意見も出ていました。このように各 機関とも訓練の重要性を認識し、今後も定期的 な開催を望む声が多く見られるなど実りの多い 訓練となりました。
なお、沖縄電力から震度6 が発生すると本島 全域停電、石川以北は3 日間の停電継続、さら に火力発電には水が必要であり断水すると発電 が出来ない、金武火力発電所が稼働出来ないと 本島は1 週間停電という説明がありました。
研究会の最後に第15 旅団の小林旅団長から 重要な点として、1)情報の共有、国県の情報を 市町村がどう活かすか、2)各々の機関がどのよ うな活動能力をもっているのかを平素から互い に知っておく、3)相互の調整と能力の補完、互 いの協力、4)各機関の積極的なサポートが必要 であると纏められました。そして、今回のオブ ザーバーは次回からはプレイヤーとして参加し てほしいとのことでした。
V.おわりに
今回の訓練では、各機関等が専門的な見地か ら能力や可能な対応行動等について提示して相 互理解を促進する所までは至らなかったようで したが、訓練を重ねる事で能力は向上すると思 われます。次回からは本会もプレイヤーとして 参加していくことになると思われますが、その 前に医療救護面からはいくつかの大きな問題が 見えてきました。
まず、全県的規模の災害時には、災害拠点病 院や救急病院は各施設の医療スタッフは自施設 を守り重傷者の受入れが優先されると推測さ れ、DMAT が出動出来なくなることも想定し ておかなければなりません。次に、今回の訓練 シナリオのように災害拠点病院である各県立病 院に負傷者を全て一次的に搬送することは避け るべきであり、負傷者が県立北部病院に1,733 名、県立中部病院に6,129 名、県立南部医療セ ンターに2,764 名が搬送という事態は避けなけ ればならないと思います。しかし、現時点では このような認識が県や各機関にあるのかもしれ ません。さらに、本県は島嶼県であり隣県がな いため、他府県からの救助応援が到着するまで にはかなりの時間を必要とします。
これらのことから、県の担当部署ならびに DMAT や消防機関等と協議して今回のシナリ オのような大規模災害時の医療に対する現実的な行動計画案を策定しておく必要があると思い ます。そして、防災関係各機関の間における共 通認識にしていく必要があると思います。
本会ではJMAT の登録を開始しました。そ して、今後は計画的に研修会等を実施してい く予定です。本県の状況を改めて考えると、 JMAT は本県における大規模災害時には重要か つ不可欠な医療資源となります。今回はこのこ とが再認識され具体的な課題が見えてきた訓練 となりました。今後はこれらの課題に取り組み、 次回からはプレイヤーとして参加したいと考え ています。