沖縄県立中部病院 総合内科
本村 和久
はじめに
めまい、頭痛とも一般診療(プライマリ・ケア) でよく見られる症状である。両方見られるとき にどのようにアプローチすべきであろうか。実 際のケースを元にした架空の症例検討会にお付 き合い頂きたい。
38 歳男性、いままで入院歴のない健康な方 である。主訴は同じだが、診断がどのように異 なるのであろうか。
38 歳男性:ケース1
車の運転中に、徐々に悪化する後頸部痛があ り、あわてて路肩に車を止めた。車を止めると きに、目の前の景色が揺れるようなめまい感あ り。ギアシフトが揺れて見えてうまく握れない 感じがした。明らかな脱力、しびれはない。ろ れつ難の自覚もなし。頭痛は1 時間程度で徐々 に改善。目の前が揺れるようなめまいも2 時間 程度持続したが、その後徐々に消失。車内で1 時間休んだ後、自分で車を運転、自宅に帰った が、家族が受診を勧め受診。耳鳴なし。難聴な し。いままで頭痛、めまいなし。胸痛なし、動 悸なし。
38 歳男性:ケース2
1 年前から目の前が回るようなめまい(回転 性)が主に頭を動かすときに出現。持続時間は 3 分から15 分程度。2 年前からの頭痛持ち(拍 動性、4 〜 5 時間続き、左片側、吐き気を伴うと、 会社を休むことがある)だが、めまいと頭痛発 作は関係あるときとないとき(頭痛がなくめま いのみ)がある。耳鳴なし。難聴なし。半年前 に、この症状(めまい)で医療機関を受診、頭 部MRI、MRA で異常なしと言われた。最近め まいが毎日2 〜 3 回起こるため(多くは頭痛を 伴う)、当院を受診された。
どちらのケースも受診時には症状消失してお り、バイタルは正常、ホルネル徴候など神経所 見も含め、身体所見に異常は見られなかった。 診断は?
めまいと頭痛の疫学
めまい、頭痛とも一般診療(プライマリ・ケ ア)でよく見られる症状である。プライマリケ アの外来でどのような主訴が多いのか様々な研 究があるが、米国でのデータ1)では、主な外来 受診の理由(定期外来通院を含む)のうち、め まいは0.9%、頭痛は1.3%(ちなみに最も多 い訴えは咳の4.2%)である。
しかし、めまいに頭痛が加わると、より重篤 な疾患が鑑別の上位にあがる(表1)。頭痛は、 Red Flags(危険信号:生命に関わる重篤な徴 候)と言われる症状の一つである。めまいで怖 いのは、脳血管障害と心血管障害であり、歩行 障害、麻痺や失調などの神経学的異常、胸部 症状や失神などの心血管障害から起こりうる症 状、またバイタルサインの異常がよく言われる Red Flags2)となる。めまいと頭痛が併存する ときの鑑別診断については、脳血管障害や感染 症など多岐にわたる(表2)。
表1 めまいのRed Flags(危険信号)
表2 めまいと頭痛が併存するときの鑑別診断
診断と経過
ケース1
診断 椎骨動脈解離
めまい症状で、緊急性を要するは、脳血管障 害か心血管障害・不整脈である。病歴から初回 の頭痛(緩徐発症)があり、若年でも脳血管障 害を念頭に入れる必要がある。片側性の神経症 状なく、疑うとすれば、小脳、脳幹部の病変が部位として考えられる。脳動脈瘤破裂や小脳梗 塞も鑑別に上がる。急性発症の後頸部痛、その 後のめまい症状でこわいのは、脳血管障害であ ろう。椎骨脳底動脈解離で起こる頭痛は突然発 症とは限らず(20%)3)、突然発症=脳血管障 害ではない(緩徐発症でも否定は出来ない)こ とに注意が必要。
経過
病歴から椎骨脳底動脈解離を疑い、すぐに頭 部造影CT(3D CT)を施行、椎骨動脈に狭窄 部位を認め、解離があると考えられた(図1)。
入院での抗凝固療法(ヘパリン)を勧めたが、 症状もなく、仕事も忙しいとのことで、抗血小 板薬のみの投与で経過をみた(抗凝固療法と抗 血小板療法の優劣を明確に示した臨床試験はな いが、アメリカ心臓協会AHA は6 ヶ月間を目 処とした抗凝固療法を推奨、アメリカ胸部疾患 学会ACCP は抗血小板療法でもよいとしてい る4))。このケースでは、その後再発すること もなく良好な経過をみた。
ケース2
診断 片頭痛関連めまい
病歴から片頭痛の可能性が高いこと、また頭 位と関係する回転性めまいから前庭症状と考 え、片頭痛関連めまいを疑った。
図1 椎骨動脈の狭窄
片頭痛の診断に役立つ“POUND” という5 つの質問がある(表3)。このうち4 つの質問 が当てはまれば、片頭痛である確率が非常に高 く(尤度比24)、2 つ以下の場合は確率が下が る(尤度比 0.41)。このケースでは5/5 で片頭 痛と診断5)できる。
表3 片頭痛の診断に役立つ“POUND”
片頭痛患者のうち28 〜 30%に浮動性めまい が,25 〜 26%に回転性めまいが認められてお り6)、「片頭痛関連めまい」として、下記の様 な診断基準が提唱されている7)。
表4 片頭痛関連めまいの診断基準(確実例)7)
経過
治療であるが、片頭痛を治療することでめま いも軽減することが知られている8)。このケー スでは、片頭痛の予防薬であるカルシウム拮抗 薬(ロメリジン)を使用したところ、片頭痛は 激減、めまいも起こらなくなった。
まとめ
よくある訴えであるが、見逃すと重篤な疾患 (椎骨脳底動脈解離)と症状緩和が治療可能で ある疾患(片頭痛関連めまい)について、ケー スを元に解説した。駄文を連ねたが、明日の臨 床にすこしでもお役に立つことが出来ればと思う。
参考文献
1) Schappert SM, Burt CW. Ambulatory care visits to
physician offices, hospital outpatient departments, and
emergency departments:United States, 2001-02.
Vital Health Stat 13. 2006 Feb;(159):1-66.
2) Turner B, Eynon-Lewis N. Systematic approach
needed to establish cause of vertigo. Practitioner.
2010 Sep;254(1732):19-23, 2-3.
3) Mitsias P, Ramadan NM. Headache in ischemic
cerebrovascular disease. Cephalalgia 1992; 12:269.
4) Lansberg MG, et.al Antithrombotic and thrombolytic
therapy for ischemic stroke Chest. 2012;141(2
Suppl):e601S.
5) Detsky ME, et al. Does this patient with headache
have a migraine or need neuroimaging ? JAMA. 2006
Sep 13;296(10):1274-83.
6) Kayan A, Hood JD Neuro-otological manifestations of
migraine. Brain 1984 ; 107(Pt4): 1123-1142.
7) Neuhauser H, Leopold M, von Brevern M, et al The
interrelations of migraine, vertigo, and migrainous
vertigo. Neurology 2001 ; 56 : 436-441.
8) Reploeg MD, Goebel JA. Migraine-associated
dizziness:patient characteristics and management
options. Otol Neurotol. 2002;23(3):364.