副会長 安里 哲好
去る6 月7 日(金)、日本医師会館において、 道永麻里常任理事司会のもと、標記総会が開催 されたので報告する。
来賓挨拶
我が国では、糖尿病が強く疑われる方が約 890 万人いると想定されており、実際に治療を 受けている方が約500 万人と約6 割の受療率 となっている。
糖尿病治療の必要な方が適切な治療を受けら れることが重要な課題と認識している。
厚労省では、今年4 月から健康日本21 の第 2 次計画をスタートしており、健康寿命の延伸 と健康格差の縮小を目標としており、例えば糖 尿病だと、糖尿病の9 割以上が、食生活や運動 習慣、生活習慣に関係があると指摘を受けてい る。それら生活習慣病の発症予防・重症化予防 の徹底を図ることが重要と考えている。
また、糖尿病が原因で人工透析を導入する方 が多く、透析患者は約30 万人おり、そのうち の約4 万人が新規透析導入しており、さらにそ のうちの1 万6 千人が糖尿病が原因で人工透析 の導入に至っている。
厚労省としては、健康日本21 を推進するた めに、具体的に糖尿病腎症による新規透析導入 患者数の減少を目指している。
実際に糖尿病が強く疑われているなど、健診 で指摘をされているにも関わらず治療を受けて いる方は6 割程度であることから、治療を継 続していく患者を増やしていくことを目標に掲 げ、取り組みを行うとともに、コントロール不 良者の割合も減らしていきたい。
厚労省においては、社会環境の整備を進め るとともに、医療関係者の皆様とも連携をし ながら、しっかりと糖尿病対策に取り組んでいきたい。
挨 拶
日本糖尿病対策推進会議は平成17 年2 月に、 日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、日本医師会の三者により設立した。
平成19 年に日本歯科医師会、平成20 年に 健康保険組合連合会と国保健康保険中央会に参 画いただき、その後も日本腎臓病学会、日本眼 科学会、日本看護協会、日本病態栄養学会、健 康体力づくり事業財団、日本健康運動士会、日 本糖尿病教育看護学会の加入により、現在、13 団体で構成される組織となっている。
我が国の疾病構造が急性疾患から慢性疾患へ シフトするなかで、糖尿病をはじめとする生活 習慣病の罹患者は増加の一途を辿っており、そ の対策は国民の健康の維持・増強という視点か らも重点的に実施すべき課題である。
昨年公表されたWHO 世界保健統計において も、生活習慣の改善により予防可能な疾患を非 感染性疾患と位置付け、世界レベルで糖尿病や 高血圧等の生活習慣病のリスクが高まっている ことを指摘しているところである。
また、本年度から第2 次を迎えた健康日本 21 においても、がん、循環器疾患、糖尿病、 COPD 等の生活習慣病の発症予防と重症化予 防の徹底をあげている。
これら、NCD 対策においては、地域住民へ の啓発教育、早期からの医療介入が重要である ことは言うまでもない。
そのためには、医療資源が必ずしも平準化し ていない我が国において、地域の特性に応じた 医療連携、多職種間連携により、地域で医療を 完結する体制を構築することが不可欠な対応で あるとともに、日本糖尿病対策推進会議や都道 府県や各地域の糖尿病対策推進会議が果たすべ き役割は益々重要になっているものと思われる。
本日は各地域における先駆的な連携の取り組 み、医科歯科連携、HbA1c の国際標準化、日 本糖尿病対策推進会議が実施した尿中アルブミ ン調査など、あるべき糖尿病対策を様々な角度 から紹介していただく事としているので、拝聴 いただきたい。
日本糖尿病学会は、糖尿病の合併症が深刻な 状況であることに鑑み、早期診断体制および早 期治療体制の構築のための取り組みを行うな ど、6 項目のアクションプラン(DREAMS プラン)を展開してきた。
その中で、昨年の4 月1 日からHbA1c の国 際標準化について、日本糖尿病対策推進会議の 皆様と取り組んできた。
また、今年の4 月1 日からは、特定健診・保 健指導においても国際標準化がなされ、NGSP 値に統一された。来年の4 月1 日からは日常臨 床を含め、全ての表記がNGSP 値に統一され るということで、引き続き、国際標準化の推進 に理解賜りたい。
さらに、これまでのHbA1c の目標値の改 訂を行い、良好なコントロールがNGSP 値で は6.9%未満と切りの悪い数字であることや国 際的には7%未満が用いられていることから、 種々の検討を重ねてきた。また、これまで優良 か不可という形で血糖コントロールの評価が行 われてきたことに対し、患者さん目線ではない との意見があったことから、5 月16 日の第56 回日本糖尿病学会年次学術総会において、新 HbA1c の合併症を抑制する目標値として、7% 未満とすることで採択され、6 月1 日から施行 されている。
Keep your A1c below7%を合言葉に、日本糖 尿病学会としても、日本糖尿病対策推進会議を 最も重要な活動の場として、糖尿病患者の幸福 を慈しむために邁進していきたい。
本年4 月より、新公益法人に移行し、現在、 患者6 万、医療スタッフ3 万、市民・企業等1 万5 千人と合計10 万5 千人の会員が力を合わ せて国民の健康増進に取り組んでいきたいと決 意を新たにしているところである。
特に、糖尿病対策推進会議のプランニングを 実行に移す役割が、我々の担うべき役割と認識 しており、日本糖尿病学会の認定する専門医を 補完する登録医、あるいは医科歯科連携の要に なる歯科医師登録医を要して対策を図っている ところである。
なかでも、療養指導に最も重きを置いており、 日本糖尿病療養指導士認定機構の認定する糖尿 病療養指導士1 万7 千人に加え、地域で医療を 完結させ、質の高い医療を提供するという意味 で、各府県に地域療養指導士を立ち上げ、既に1 万人が取得している。
我々は、国民に対し、均一な質の医療を提供 する環境を整備し、糖尿病学会の専門医の指導 を得ながら進めていきたい。また、日本医師会 や日本歯科医師会とも密な連携を図り、糖尿病 の合併症も防いでいかなければならなく、当会 議は非常に重要な会議と認識している。
当会で討論されたことを地域の隅々まで伝え ていただき、本日の会を実り多きものにしていただきたい。
口の中の大きな疾患は虫歯と歯周病であり、 国民病とも呼ばれ、罹患率の非常に高い疾患で ある。近年、歯周病と糖尿病の間に相互の関係 があるといわれてきた。
糖尿病の患者が歯周病になると、極めて運が 悪く治療してもなかなか治らないことは経験上 知っているが、歯周病の存在が糖尿病のコント ロールに支障を来すことが分かってきた。歯周 病の治療をすることでHbA1c の数値が下がっ てくることも少しずつ判明されてきている。
虫歯も歯周病も感染性の疾患である。細菌が 存在するだけで発病しないが、口腔内の不適切 な処置により細菌が結び付き、感染し発病する というメカニズムが解明されてきた。
当会議に参加させていただきながら、広い意 味から、口の中を通して患者の生活をみるとい う事を診療の根底に置くことを会員に浸透させ ていこうとしている。
今後も国民の健康を守るために、日本歯科医 師会として、最大限の努力を続けて参るのでご 支援賜りますようお願い申し上げる。
日本医師会の道永麻里常任理事より、日本糖 尿病対策推進会議を構成する下記の団体及び役 員が紹介された。
〔幹事団体〕日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、日本歯科医師会
〔構成団体〕健康保険組合連合会、国民健康保 険中央会、
日本腎臓学会、日本眼科医会※、日本看護協会※、
日本病態栄養学会※、健康・体力づくり事業財団※、
日本健康運動指導士会※、日本糖尿病教育・看護学会※
※は今回より新規加入
〔会 長〕横倉義武(日本医師会会長)
〔 副 会長 〕門脇 孝(日本糖尿病学会理事長)
清野 裕(日本糖尿病協会理事長)
大久保満男(日本歯科医師会会長)
今村 聡(日本医師会副会長)
〔常任幹事〕春日雅人(国立国際医療研究センター総長)
荒木栄一(日本糖尿病学会常務理事)
植木浩二郎(日本糖尿病学会理事)
田嶼尚子(日本糖尿病学会糖尿病
データベース構築委員会委員長)
稲垣暢也(日本糖尿病協会理事)
羽生田俊(日本医師会副会長)
三上裕司(日本医師会常任理事)
道永麻里(日本医師会常任理事)
〔幹 事〕松本義幸(健康保険組合連合会参与)
飯山幸雄(国民健康保険中央会常務理事)
松尾清一(日本腎臓学会理事長)
福田敏雅(日本眼科医会常任理事)
福井トシ子(日本看護協会常任理事)
山田祐一郎(日本病態栄養学会理事)
増田和茂(健康・体力づくり事業財団常務理事)
黒田恵美子(日本健康運動指導士会理事)
数間 恵子(日本糖尿病教育・看護学会理事長)
当該調査は、日本糖尿病対策推進会議設立以 来、平成17 年度より各都道府県に対し糖尿病 対策推進事業の活動状況を調査しているものである。
また、当該調査結果は、都道府県医師会にフィードバックするとともに、構成団体に対して も情報提供しているところである。
さらに、事業状況に応じ日本医師会から都道 府県医師会に財政支援を行っているところである。
平成24 年度の糖尿病対策推進事業の主な事 業内容は、講演会、研修会、セミナー等の開催 や、啓発資料としてポスター等の作成、地域連 携システムの構築としてクリティカルパスの作 成が行われている。また、全国45 か所で、世 界糖尿病デー等の事業が実施されている。広報 ツールとしては、TV、ラジオ番組、新聞掲載、 刊行誌等への掲載が行われている。
参加団体は、行政、大学、薬剤師会、栄養士 会、教育委員会、学校保健会等と一緒に活動が 行われている。
医療計画における糖尿病の医療体制構築へ関 与しているところは41 か所となっている。
日医は平成22 年8 月20 日付、糖尿病疾病 管理強化対策事業費の予算要求について、厚 労省健康局長へ要望書を提出した。結果、平成 23 年度、24 年度に予算計上されたものの、平 成23 年度は12 医師会、平成24 年度は9 医師 会の執行に留まっている。
この事業内容は、糖尿病に関し、関係団体と の連携、特に都道府県糖尿病対策推進会議の活 用により、それぞれの医療資源等の実状に応じ た医療連携のあり方を検討し、検討結果を踏ま えた事業を実施するものである。
平成26 年度予算の国に対する概算要求要望 の中で、生活習慣病対策の推進として、糖尿病 疾病管理強化対策事業費の継続を要望してい る。糖尿病等の生活習慣病対策の推進には、医 療計画に基づく診療計画が促進されることが望 ましいとされており、多職種の連携が重要であ ると訴えている。
日本歯科医師会における糖尿病・歯周病連携 の基本的な考え方は、「疾病の減少と重症化予 防」、「医科歯科連携の推進」、「医療計画の推進」である。
これらを推進していくにあたり、「歯周病検診の推進・充実」、「医科歯科連携事業の推進」、 「都道府県における糖尿病・歯周病連携の推進」 に取り組んでいく必要がある。
我が国の抜歯原因の第1 位は「歯周病 (41.8%)」、第2 位は「う蝕(32.4%)」となっ ており、特に歯周病の罹患率は、若い世代でも 高く、加齢に伴い増えている。また、中高年の 50%以上は歯周病に罹っており、65 歳を過ぎ ると急激に歯を失うなど、歯周病は国民病とも 言われている。
歯の本数が多いと何でも噛んで食べることが できるが、本数が少ないと食べられるものが制 限される。バランスの良い食事を美味しく、し っかり噛むためには自分の歯を健康に保つこと が重要である。
糖尿病治療の基本は、適切な「食事」と「運 動」であるが、歯周病が進み、歯が失われると、 早食いや柔らかい食品に偏りがちになる。また、 よく噛んで食事をすることで、食べ過ぎを防止 したり、食物繊維の食品中の脂肪や糖質の吸収 を緩やかにすることができることから、歯科医 師会の初歩の連携として、しっかり噛んだ糖尿 病予防対策を図っていきたいと考えている。
先般行われた日本医師会市民公開フォーラム において、日本歯科医師会より、糖尿病の人は 歯周病になりやすく、血糖コントロールが悪い ほど歯周病が悪化する等の糖尿病が歯周病に及 ぼす影響を訴えさせていただいた。
また、国が推進する「どこでもMY 病院」糖 尿病記録の中に、歯科の問題として歯周病を取 り上げていただいていることや、厚労省委託事 業である医療情報サービスのMinds に「糖尿 病患者に対する歯周病治療ガイドライン」が掲 載されており、エビデンスに基づく歯科医療も 確立されている。
さらに、第5 次医療計画における4 疾病(が ん、脳卒中、糖尿病、急性心筋梗塞)のうち、 全国で医科歯科連携が進んでいるのは糖尿病で あることや、日本糖尿病協会登録歯科医を糖尿 病の医療体制図のかかりつけ歯科医療機関の要 件とする県もあること等から、今後、より良い 医科歯科連携が推進されることを期待する。
熊本県における糖尿病対策推進会議の活動と して、下記6 点について報告された。
〔熊本県糖尿病対策推進会議連携医制度〕
熊本県では、糖尿病患者が多く、糖尿病専門医 のみで管理することが出来ない状況にあることか ら、かかりつけ医の先生方に地域の糖尿病診療の 窓口となっていただくことが期待されている。
そこで、一般医家で研修会受講により糖尿病 診療をスキルアップした先生方を熊本県糖尿病 対策推進会議が「連携医」として認定する制度 を設けている。
熊本県における糖尿病の推計患者数は約14 万人となっている。一方、糖尿病専門医は82 名で、認定教育施設が16 施設、連携医は209 名認定されている。
連携医は、熊本県糖尿病対策推進会議のホー ムページや一般市民向けの啓発チラシ等に掲載 し、広く呼び掛けを行っている。
連携医の認定要件および更新は以下のとおり。
○認定要件
※実務者研修会
A コース ― 糖尿病診療のBrush up ―
B コース ― 症例検討会 ―
○連携医更新
〔DM 熊友パス〕
DM 熊友パスは、糖尿病患者の日常診療や境 界型への対応、軽症患者の管理等を行う連携医 と年に1、2 回ほど、慢性合併症の精査・管理 や栄養指導等を行う専門医療機関への紹介・逆 紹介を円滑に行う循環型連携ツールである。
また、眼科・歯科や調剤薬局のほか、医療保 険者(市町村)による有所見者の受診勧奨等も 行える仕組みとなっている。
DM 熊友パスは手帳方式となっており、裏表 紙に薬剤師や健診機関、保健師等から指導内容 等を自由に記入できるスペースを設けているほ か、患者自身が情報を管理し意識を持てるよう 自己管理チェック表を備えている。
実際の患者の診療情報等のデータに関して は、日本糖尿病協会が作成する糖尿病連携手帳 を併用しており、診察券やDM 熊友パス、糖尿 病連携手帳、お薬手帳、市町村発行の健康手帳 等が一式に纏められるようなビニールカバーを 作成して運用している。
連携の対象となる患者は、基本的には糖尿病加療中であれば、どなたでも対象となる。
また、患者は複数の医療機関を跨ぐことにな るので、誤解を与えないような周知用ポスター やパンフレットを作成し配布している。
〔軽症糖尿病取り扱い指針(熊本県版)〕
熊本県では、特定健診等で、糖代謝異常を指 摘され「医療機関受診」を勧められた患者につ いては原則、医療機関における定期的なフォロ ーアップを要するため、「軽症糖尿病、境界型 の取り扱いの基本指針」を定めている。
当該指針は、本邦における軽症糖尿病およ び境界型の管理の問題点や軽症糖尿病および 境界型の継続的管理の意義、経口糖負荷試験 (75g-OGTT)の意義・必要採血項目・判定基 準のほか、軽症糖尿病および境界型の診断・管 理のためのフローチャートが掲載されている。
〔糖尿病地域連携ネットワーク研究会から住民フォーラムへ〕
熊本県では、11 の二次医療圏の連携医、専 門医療機関、コメディカル、医療保険者、行 政の顔の見えるネットワークを構築し、各圏域 において研究会を開催し糖尿病対策を図ってき た。平成22 年8 月から平成24 年3 月までの 期間で合計1,170 名の関係者による研究会を実 施してきた。
これは、特定健診などにより、スクリーニン グされた糖尿病患者に速やかに連携医を受診し てもらうための道筋を作成していくものである。
また、県行政や保健所、市町村保健師、栄養士、 大学、連携医、専門医により、平成24 年10 月 〜平成25 年4 月までの期間において、糖尿病 学会年次学術集会開催にリンクした医療圏域毎 の市民向け糖尿病予防フォーラムを開催した。
〔ブルーサークルメニュー〕
熊本県では、県内の飲食店・弁当店・惣菜店 等が考案した外食メニュー(600kal未満かつ塩 分3g 未満のメニュー)をブルーサークルメニ ューとして、認定している。
現在、92 作品が登録されており、糖尿病や肥満の予防・改善を目指している。
また、一般市民や患者向けの啓発用パンフレットを作成、配布し広く周知している。
〔その他の啓発活動〕
その他の啓発活動として、熊本市電のラッピ ング電車による啓発や、世界糖尿病デー(11 月14 日)におけるブルーライトアップ(熊本 城等)事業を展開するほか、世界糖尿病デー記 念ウォークを実施している。
平成23 年度国民健康・栄養調査では、20 歳 以上の国民の4 人に1 人が糖尿病を強く疑われ る、もしくは糖尿病予備軍であるとされている。 和歌山市における平成23 年度特定健診結果で は、40 〜 74 歳の市民の約40%が糖尿病もしくは予備軍であることが分かり、糖尿病の脅威 が身近に迫ってきていると感じる。地域におけ る糖尿病診療の質の確保と療養指導技術の向上 を図る効果的な地域連携システムの構築が必要 となってきた。
地域で望まれる医療連携とは、病診・病病連 携といわれる従来型のピラミッド型連携と患者 さんも治療者の一員と位置付けて、その周辺を 様々な職種が取り囲むドーナツ型の連携を組み 合わせた地域包括医療連携である。
これら、多職種事業者への情報提供、情報共 有手段として地域連携パスが注目されることとなった。
和歌山市では2007 年頃から糖尿病連携パス作 成の動きがあり、市内拠点病院はもとより、県 医師会や保健所等の参画もあり、糖尿病診療地 域連携和歌山方式の構築への検討を行ってきた。
結果、2008 年11 月14 日の世界糖尿病デー において、和歌山医療圏ならびに那賀医療圏に おいて、糖尿病診療地域連携和歌山パスを地域 共通のツールとして、患者さんを中心とした、 かかりつけ医と専門医療機関の二人主治医制度 による診療を通じ、地域医療の効率化と質の向 上に努めることを宣言した。
糖尿病診療地域連携和歌山方式は、糖尿病連 携パスに則り、普段の診療はかかりつけ医で、 毎月受診、検査、投薬、治療・指導を行うこと とし、3、6、12 ヶ月後(2 年目以降は6 ヶ月毎) に専門医療機関を定期受診し、定期検査、療養 状況のチェック、栄養指導やアウトカムを再設 定し、かかりつけ医へ戻る二人主治医制診療シ ステムである。2 か所受診による診療報酬の請 求漏れや重複請求を避けるためのルールも備えている。
また、情報共有とアドヒアランス向上を目的 に、糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳、地域連携 カードの活用を推奨している。地域連携カード には、治療目的の3 要素を設定することと、緊 急時は専門医療機関で対応することを明記している。
地域診療システムが構築されても、実際に利 用され、効果が患者さんに還元されなければ意 味がないため、和歌山市医師会主導により、連 携支援策の検討を行った。
和歌山方式の最大の目標は、合併症の新たな 発症や進展を防ぐことにあり、眼部会からは、 定期的な眼科の受診が指摘された。腎部会か らは、経過中に明らかな蛋白尿が出現した際、 CRE < 1.5、eGFR < 30 の場合は速やかに腎 専門医を受診することとした。
和歌山市における地域連携パスの現状は、大 腿骨頸部骨折パスや脳卒中パスは比較的スムー ズに運用されているものの、5 大がんパスにつ いては、利用は極めて少ない。
また、糖尿病パスは1 施設100 例以上から0 例など、基幹病院からクリニック間様々である など、専門病院上層部の意向に大きく影響され ているように感じる。
これまで、地域連携パスは紙媒体が主流であ ったが、手書きでの医師業務煩雑や患者外来時 の持参忘れ、患者破損、紛失時のためのバック アップ、共有情報の遅延・錯綜、診療報酬算定 上の問題等々の課題があったことから、IT を 活用し、サーバー内の共有フォルダに連携パス を置いて、インターネット環境クラウド方式の 運用により課題克服を試みた。
糖尿病サイバーパスはエクセルファイルその ものである。診療工程表かつデータシートとな っている。診療データをテキスト・数値、プル ダウン等で入力し、BMI やLH 比、eGFR は自 動計算で出てくることになっている。
現在、倫理委員会で承認を得た2 基幹病院で 10 数例のサイバーパスが稼働し、1 病院ではパ イロットスタディが開始されたところである。
クラウド方式でのサイバーパスの運用は、は じめに、専門医が提携先かかりつけ医との専用 の共有フォルダを作成し、サーバーに設置され ている糖尿病テンプレートに患者データを入力 して共有フォルダに収納する。
本システムでは、サイバーパスが共有フォル ダに収納されるために、お知らせメールが連携 先へ自動発信されるようになっている。
連携開始を感知したかかりつけ医はサーバー にアクセスし、サイバーパスを取り出し、医療 情報を入力し、共有フォルダに収納する。この ような操作を交互に行い情報共有を進めていく ことになる。
アクセスの手順は、はじめに、機器の認証が問われ、利用者のID・PW を入力し、WEB サ イト和歌山糖尿病連携サイバーパストップペー ジから連携パス共有ページを経由し、共有フォ ルダへ進む。共有フォルダにアクセスするには、 再度、ID・PW の入力が求められ、認証確認後、 サイバーパスに到達する。
和歌山糖尿病診療地域連携サイバーパスシス テムの管理・運用主体は和歌山市医師会が行っ ており、運用実務は当会医療情報室にて行っている。
運用支援として、サーバーの保守・管理は株 式会社メディエイド、株式会社スズケンに委託 し、機密保持契約等の締結も行っている。
また、当会内に和歌山サイバーパス制度管理・ セキュリティ委員会を設置し、厚労省、経産省、 総務省の制定するセキュリティガイドラインを 準拠したセキュリティポリシー等を作成すると ともに、SSL 方式による暗号化通信等のセキ ュリティ対策を行っている。
地域における専門医とかかりつけ医の二人主 治医制診療に介在する糖尿病連携パス・サイバ ーパスは、診療工程を示し、役割分担を図り、 情報共有するという3 つの目的を持ち、療養計 画の提示、診療情報の提供ならびにアウトカム の選定という3 つの役割を果たし、さらに、地 域多職種事業者間に行くと目的が共通認識さ れ、達成過程が明瞭で療養効果が確認されると いう3 要素を備えている。
日本医師会は、地域連携は線でなく面で行わ れるべきで、住民が分かり易く、かかりつけ医が 使いやすいものであり、地域全体をカバーする ものであるべきで、医師会が拠点病院と連携し ながら共同で実施するべきと見解を示している。
我々が構築する糖尿病診療地域連携クリニカ ルパス・サイバーパスは、かかりつけ医と専門 医の役割分担による二人主治医制連携診療を支 援する有力なツールである。
また、情報の共有が図られ、地域多職種間連 携を促進し、バリアンスへの迅速かつ臨機応変 な対応が可能となるものである。
さらに、メガコンピュータやデータベースを 必要とせず、安価で汎用性の高いクラウド方式 地域医療支援システムとなっている。
糖尿病患者における尿中アルブミン実態調査 として治療状況等を把握することを目的に、都 道府県医師会に対し、各々800 症例の回収を 目途に、チェックシートの配布を依頼した。な お、調査の期間は平成22 年11 月〜平成23 年 1 月の3 か月間とした。
回答方法はFAX もしくはWEB による回答とした。
今回の調査結果より、以下の点について纏められた。
日本糖尿病学会では、糖尿病診療の向上と糖 尿病の撲滅を目指して、2005 年より対糖尿病 戦略5 ヶ年計画を策定している。第2 次対糖尿病戦略5 ヶ年計画では、日本糖尿病学会のアク ションプラン2010(DREAMS)を今後5 年間 の活動目標として重ねている。
DREAMS は、1)糖尿病の早期診断・早期 治療体制の構築(Diagnosis and Care)、2)研 究の推進と人材の育成(Research to Cure)、 3)エビデンスの構築と普及(Evidence for Optimum Care)、4)国際連携(Alliance for Diabetes)、5)糖尿病予防(Mentoring Program for Prevention)、6)糖尿病の抑制(Stop the DM)の頭文字から組み合わされている。
また、糖尿病の患者や予備軍を正しく診断し、 早期介入することの重要性に鑑み、2010 年に 新しい診断基準を作成した。それは、糖尿病診 断の一つの指標として取り入れ、早期診断・治 療に努めることを普及し、昨年の3 月まで使用 してきたHbA1c のJDS 値である。
JDS 値で表記されたHbA1c は、世界に先駆 けて精度管理や国内での標準化が進んでいる が、海外で使用されているNGSP 値で表記さ れたHbA1c と比較して約0.4%低くなってい る。早急に国際標準化を進め、疾患の診断は世 界と統一したものとなるよう、日本糖尿病対策 推進会議を中心に推進してきた。
2014 年4 月から、著作物・学会発表当、日 常臨床、特定健診・保健指導のすべての表記が NGSP 値への単独表記へ完全移行となる。
さらに、糖尿病治療ガイド2012-2013 にお ける「血糖コントロール目標」が改訂され、血 糖正常化を目指す際の目標がHbA1c 6.0%未 満、合併症予防のための目標がHbA1c 7.0%未 満、治療強化が困難な際の目標がHbA1c 8.0% に設定され、本年6 月1 日より運用が開始され ることになっている。
去る5 月16 日、熊本県において開催さ れた第56 回日本糖尿病学会年次学術集会で は、糖尿病の合併症予防を重点的目標に掲げ、 HbA1c7%未満を保つとする「熊本宣言2013」 が宣言された。
第2 次対糖尿病5 ヶ年計画においては、日本 糖尿病対策推進会議を中心として、糖尿病撲滅 に向けた社会環境の構築を様々な形で啓発して いくことを計画している。
<島根県医師会より事前質問>
多くのDDP-4 阻害薬や新たな薬剤の登場に伴 い、炭水化物摂取量の議論、国際規格など、薬剤 やデータの扱い方などに更に眼を向けがちな状 況があるように感じる。上記は重要な部分ではあ るが、糖尿病対策とは何かについて考えていく上 で、現在の医療にクライアントの人生目標を支え ていける医療部分について考えていただきたい。 学会や対策推進会議の中でカロリー制限、運動療 法、検査データや治療薬以外でのクライアントへ の働きかけを医療全体で考えていければすばら しい力になると思う。
また、そのためにどのような言語的・非言語 的な働きかけを施行する事が有用であるかについ て、医師以外の意見も聞きながら、ともに学ぶ姿 勢で考えていけるような場が必要に感じる。
このことは、糖尿病に限らず、全ての医療で 学会レベルで検討していただきたい部分である。
<道永常任理事より回答>
日本糖尿病対策推進会議は医師以外の様々な 団体で構成している。ご要望の趣旨を踏まえ、 今後の活動について検討していきたい。
また、地域においても糖尿病対策については 都道府県糖尿病対策推進会議として、多職種連 携の下、地域の実情に応じた活動を進めていた だくようお願いしたい。
Q. 公立等の病院がデータ提供する際には、交 渉が必要となってくると思われるが、どのよう に対応してきたのか、経験があれば伺いたい。
A. 各公立病院の倫理委員会にて協議いただき パイロットスタディとして進めていくこととし ている。今後の状況をみながら、正式な運用を 倫理委員会で諮っていくことになる。
Q.IT による医療連携を今後どのように展開し ていくかお聞かせいただきたい。
A.PC 環境のない方が多く、未だIT を進めて おらず、今後の課題となっている。一方、IT を使うと連携が広がらないのではないかという 意見もあり課題を残している。
Q.HbA1c の目標値について、手術など緊急時 における位置づけをどうするか。
A. あくまで長期的なコントロールの目標値で あり、緊急性を要する手術等に関しては別に考 えていただきたい。
Q. ブルーライトアップ事業で熊本城をライト アップしているが、費用をどのように工面して いるかお聞かせいただきたい。
A. 熊本城はもともとライトアップされており、 フィルムを作成する作業費が50 〜 100 万と聞 いている。その維持費が年間20 万円で、日本 糖尿病対策推進会議や日本糖尿病協会から補助 いただいている。
<要望>
当県では、24 名の専門医しかいないため、 県内のDM 医療のレベル上げは難しい。キーパ ーソンは、CDE になると思うが、資格をとる ハードルと更新のハードルが高いし、費用も高 いと伺っている。医療機関の期間的、人的、金 銭的な面から、更新日の低減や診療報酬への関 与を図っていただくようお願いしたい。
印象記
副会長 安里 哲好
日本糖尿病対策推進会議総会(4 回目)が3 年ぶりに日本医師会で開かれ、小生にとっては初 めての参加であった。横倉義武日本医師会会長は、同会議は平成17 年2 月、日本糖尿病学会、 日本糖尿病協会、日本医師会の三者により設立し、現在13 団体で構成されていると述べ、糖尿病 を初めとする生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底、そして地域住民への啓発教育と早期か らの医療介入が重要だと話されていた。森脇孝日本糖尿病学会理事長は、糖尿病の合併症が深刻 な状況であることを鑑み、早期診断体制及び早期治療体制の構築のための取り組みとして、6 項 目のアクションプラン(DREAMS プラン)を展開しており、その中で、今年の4 月より特定健診・ 保健指導でHbA1c の国際標準化がなされ、NGSP を用いるようになり、糖尿病合併症を抑制す る目標値として7%未満(実際は6.9%未満が良好なコントロール状態だが、区切りが良いので) を提唱することになったと述べていた。
熊本県の古川昇先生は、熊本県における糖尿病の推計患者数は約14 万人で、糖尿病専門医は 82 名で、認定教育施設が16 施設、連携は209 名認定されている現状を話され、事例報告の内容 として、1)熊本県糖尿病対策推進会議連携医制度、2)DM 熊友パス、3)軽症糖尿病取扱い指針、 4)糖尿病地域連携ネットワーク研究会から住民フォーラムへ、5)ブルーサークルメニュー、6) その他の啓発活動について述べていた。
和歌山市医師会田中章慈先生は、糖尿病診療地域連携和歌山方式について報告があった。かか りつけ医と専門医との二人主治医制度を確立し、和歌山パスは地域内共通項目と医療機関選択項 目、そして患者さんの状態に合わせて使用されており、また合併症対策も重要課題とされていた。 連携パスをIT 化に向けてパイロットスタディを開始したところと述べていた。
新潟大学保健管理センター教授鈴木秀樹先生は、14,971 例を対象に尿中アルブミン実態調査を 報告していた。日本糖尿病学会理事の植木浩二郎先生はDREAMS プランとHbA1c 国際標準化に ついて報告していた。
一方、沖縄県においては、厚生労働省「平成21 年地域保健医療基礎統計」の「糖尿病の推計 患者の受療率(人口10 万対)の年次推移、入院- 外来・都道府県(患者住所地)別」によると、 「入院受療率(人口10 万対)」が19 人(全国平均20 人)でワースト29 位、「入院外受療率(人 口10 万対)」が99 人(全国平均147 人)で最も受診率が低かったにもかかわらず、日本透析医 学会統計調査委員会の調査(平成22 年)によると、都道府県別人工透析患者数(人口10 万対) が2,940 人、都道府県別糖尿病性腎症による新規導入患者の割合が47.8%といずれも全国平均を はるかに上回るワースト5 位であること等から、有病者でありながら未受診であることが多く、 重症化してから医療機関へかかる傾向が見られる。死因別死亡率では、糖尿病の死亡率の順位は 男女とも1 位(平成17 年年齢調整死亡率)から、男性11 位、女性7 位(同22 年)と改善傾向 を示しているも、その予備軍とも言えるメタボリック症候群該当者・予備軍の割合(平成23 年 度県民栄養調査)は、男性65.8%(全国31.5%)、女性33.1%(全国22.8%)となっており、全 国平均を大きく上回っている。さらに、メタボリック症候群の重要項目である肥満は男性46.7%(全 国29.3%)、女性39.4%(全国26.6%)と共に全国1 位である(平成22 年国民健康・栄養調査)。 また、糖尿病およびメタボリック症候群は脳卒中(死因全国2 位:40 〜 59 歳)・心筋梗塞(死因 全国4 位:40 〜 59 歳)に進展して行く。かような状況で、糖尿病対策・メタボリック症候群対策・ 肥満対策は、県民の生命と健康保持そして長寿県復活への喫緊かつ最重要課題であろう。