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医療基本法(仮称)制定に関する
都道府県担当理事連絡協議会

稲田隆司

常任理事 稲田 隆司

去る4 月17 日(水)日本医師会館において 医療基本法(仮称)制定に関する都道府県担当 理事連絡協議会が開催されたので、その概要を報告する。

開 会

今村定臣常任理事より開会が宣言され会が進められた。

挨 拶

横倉義武日本医師会長

本日は年度初めのお忙しい中、お集まりいた だき感謝申し上げる。医療を正面から捉える基 本法を定めてはどうかという提案は、日本医師 会では古くは昭和40 年に提唱された。その後 この法案が廃案となり、暫くはこの種の議論は 行われなかった。しかし、一方で患者の権利法 が議論され出している中、患者の権利意識が高 まって権利法に関する状況となっている。執行 部では患者の権利を尊重して、利益を守ることは医療提供者の責務であるということは言うま でもないが、法で定めるためには医療業界で働 く様々な立場の方々の役割・責任・権利がバラ ンスよく纏まることが適切ではないかと思う。

本日は会内の医事法関係検討委員会では長年 に渡る、医師と患者の関係について法的側面か らの考察を通じて、医療政策全般に渡る理念の 欠如、法制の括りがもたらす現実の医療に及ぼ す弊害などを指摘して結論として医療基本法の 制定が必要ではないかと提言に至った。

現在は鈴木委員長の下でお手元の資料のよう な医療基本法条文の草案まで纏めていただいて いる。会内的には委員会の報告書が会長に提出 されたという段階で留まっているが、今後は広 く会内の意見を聞きながら着実に議論を進めて いくことを考えている。

本日の担当理事連絡協議会では、先生方のご 意見を頂戴すると共に、本当にこの法案が必要 なのかを含めて議論していただきたい。医療提 供者と患者の信頼関係で医療が行える環境をしっかりと作っていきたいと思う。

医療基本法問題に関する背景説明
今村定臣常任理事

初めに、この報告書は日本医師会の公式見解 とはなっていないので、ご理解いただきたいと のことで以下のとおり説明があった。

ここ数年の医療基本法議論の中では、厚労 省のハンセン病問題の報告書が平成21 年〜 22 年にかけて取り纏められ、その中で患者の権利 法を制定するべきだということで、患者・被害 者側と医療側との妥協案として言わゆる医療基 本法の考え方が取り入れられることになった。 一方、医療業界では日医委員会報告書の後、日 本歯科医師会、全国自治体病院開設者協議会な どから意見書を提出されているが、具体的な検 討結果は示されていない状況である。日弁連も 患者の権利に重点を置いた提言を出されている ので、今後は意見交換をしていきたいと考えて いる。

また、政治の活動としては医療基本法議員連 盟を民主党の小西議員を中心に立ち上げている が、医療基本法をマニフェストの公約に掲げて いるのが、公明党と日本共産党だけである。

日本医師会において医療基本法というテーマ が取り上げられたのは、過去に2 回ある。昭和 43 年武見会長(当時)の諮問を受け、日本医師 会法制委員会が2 年間の検討を経て条文化し日 本医師会の見解として医療基本法第一草案を纏 めた経緯がある。その後、この草案は廃案にな ったまま医療基本法の議論はなされていないが、 ここ数年の医療を巡る様々な問題の中で再び医 療基本法の必要性について議論されている。

既に昭和43 年の草案には医療の包括性、生 産性、地域社会性、相互信頼性の4 つの基本原 則が掲げられていた。総じて言えることは、こ の第一草案は、立案にあたっての国・行政の役 割や責任を強く謳ったものであった。当時の報 告書には、2 つの背景が見られる。まず、社会 的背景としては、昭和36 年に国民皆保険が完 成し、国民が医療を受けられる権利が飛躍的に 増加した。一方で戦後20 年以上が過ぎて、国民の間に個人主義の考え方が行きわたり、医療 界にも少なからず医療提供者及び医療を受ける 側の信頼関係に歪みが出てきたことを指摘して いる。また、法律的背景では医療を取り巻く多 くの法律の無秩序に、各法律を全体的に規制す る基本的な法律がなかったため、法律相互の間 で様々な矛盾が生じてきたことであった。

昨年、医事法関係検討委員会が纏めた報告書 の背景として、平成20 年の医師・患者関係の 法的再検討についてということで、現在の医療 を取り巻く法令、通知のほとんどが医療提供者 の規制を目的とした内容が中心であったため、 両者が適切なバランスで作用する法制度の再構 築が必要であると報告された。この報告を受け て、患者中心の医療を実現するための関係者の 役割、責務を定着させる法制度構築ということ で、基本法の議論へと発展させていった。

日本医師会が考える医療基本法としては、患 者の権利を十分尊重しつつも医師・医療提供者 も安心して医療提供に専念できる環境が保障さ れることである。また、医療分野に乱立する様々 な政策を整理し、医療提供の基本的理念を示す 親たる法律として医療基本法を位置付ける考え方である。

現在の医療は、介護・福祉との連携なしには 論じられないため、医療基本法が対象とする範 囲について再検討し、医療関係者、患者等の権 利・責務の規定のあり方や法令等の整備につい ての検討を今後の課題とする。

医事法関係検討委員会答申「医療基本法の制定に向けた具体的提言」について
大井維持法関係検討委員会副委員長

平成24 年3 月に提言された「医療基本法の 制定に向けた具体的提言」に沿った内容と問題 点について以下のとおり概説した。

医療基本法については、日本医師会が我国に おける組織・団体による医療基本法案の嚆矢を なすものとして昭和43 年に第1 草案として提 言した。その後は冷却期間があり、平成22 年、 平成24 年にそれぞれ報告書を提出している。

昭和40 年代に医療基本法が廃案となった経緯については、日医・医事法関係検討委員会に より既に6 年間に渡り、医師・患者関係の法的 再検討について検討しており、平成21 年、22 年には「患者をめぐる法的諸問題について〜医 療基本法のあり方を中心として〜」という報告 書を提出している。

医学・医療の進歩発展及び医療の社会化が加 速している現在、現行の医療関係法令には粒度 や比重に差異が見られ、医療者と患者の良好な 信頼関係を構築するために、医療関係法令を統 合する医療の基本理念の明確化が求められてい る。この医療に関する基本理念を明示するのが 「医療基本法」であり、憲法の定める個人の権 利及び生命尊重の考え方や、国が医療政策を立 案する際の基本的考え方を含むものである。

医療基本法の目的とは、国民の生命と健康を 守る医療の定義、基本理念と原則を提示、医療 に関する基本的事項の提示が大切であると考え る。その上に立って医療とは何かと定義すると、 医療とは、患者の基本的権利(生存、QOL、尊厳) を尊重し、疾病の治療、健康の支援に努める術 (アート)であるとしている。この定義に沿っ て医療の範囲を考えると、疾病の治療、健康の 支援に関連する行為が医療基本法における医療 の対象とし、治療行為などの直接的介入を行わ ない介護、福祉は対象外としている。同提言で は医療基本法が対象とするものは、患者、医療 従事者、行政の三者とし、それぞれの権利、義 務、責務を定めるとしている。

医療基本法は憲法と個別法を媒介するもとの として考えており、各種個別法を統合する基本 理念を示すべきであるが、それぞれの個別法の 総則は、医療機関や医師等医療提供者の資格・ 義務などを定めた条文になっていて、現代医療 が抱えている問題を包括的に解決する条文には なっていないという欠点がある。

これが医療基本法を最も必要だとする考えである。

日本医師会の医療基本法の制定に向けた具体 的提言の刊行に対し、日本病院会では今年3 月 に「医療基本法策定に際しての日本病院会からの 提言」をまとめている。日本医師会と日本病院会の論点を整理すると、範囲、医療事故への具 体的対応、経済体制の条文化に相違が見られた。

今後は、医療基本法を個別法(子法)に対す る親法としての位置付け、理念法の性格のみな らず計画体系も加えるべきかどうか議論する必 要がある。また、医療界、国民、行政などに幅 広い議論を求め、どのようにして合意を形成し ていくべきなのか、また委縮医療・医療崩壊を 防ぎ、チーム医療を推進していくために、個別 法を含め患者・国民の利益にかなう法制度をい かに構築するかを課題とし、医療基本法制定の 必要性を主張した。

維持法関係検討委員会答申「医療基本法の制定に向けた具体的提言」における「医療基本法草案」について
鈴木維持法関係検討委員会委員長

昨年3 月に提出された「医療基本法の制定に 向けた具体的提言」の報告書について以下のと おり説明があった。

この報告書は医事法を巡る諸問題について委 員が2 年間議論を重ねて纏めた結果である。患 者の利益を十分尊重し、医療提供者が安心して 医療を提供できる環境が保障されるべきであ り、医療分野に数多くある法令や施策を整理し て基本理念を示すものであるとしている。あく までも、憲法に結び付ける各法の親法として仲 立ちする法律として考えている。

第1 章総則には、目的、定義、基本理念、国 民の責務、地方公共団体の責務、医療提供者の 責務、国民の責務を謳っている。第2 章は、医 療提供体制を確保するための施策として、国民 は前条に基づいて策定した施策を実施するため に十分な財源を確保するよう努めなければなら ないとしている。第3 章では、医療提供者の責 務として医療提供者は、医療の提供に際して、 患者が自ら判断し決定することができるよう、 十分な説明を行い、患者の理解と同意を得たう えで、医療を提供しなければならないとしてい るが、患者自ら判断ができない場合又は緊急を 要する場合はこの限りではないと但し書きを追 加するか検討中である。その他に守秘義務、個人情報の取り扱い、医療提供者の裁量、最善の 医療を提供する義務、慰労提供者の裁量、研鑽 義務、患者の利益を擁護する義務と謳っている。 第4 章は、患者の権利と義務として、自己決定 の権利、診療情報の提供を受ける権利、秘密お よびプライバシーの保護、診療に協力する義務、 秩序ある受療をする責務と定めている。

シンポジウムの報告

今村定臣常任理事より、日本医師会にて平成 24 年12 月22 日開催された内容について報告 があった。

宮崎県医師会立元常任理事より、九州医師会 連合会にて平成25 年2 月9 日開催された内容 について報告があった。

北海道医師会水谷常任理事より、北海道医師 会にて平成25 年3 月20 日開催された内容に ついて報告があった。

行政からのコメント

吉岡厚生労働省総務課長

医療基本法のこれまでの経緯について以下のとおり説明があった。

昭和46 年7 月に保険医総辞退の問題を収拾 するべく、政府は昭和47 年に医療基本法案を 通常国会に提出したが、審議末了により廃案と なっている。その後は医療法等の改正を通じた 体系整備と体系の充実を図ってきた。

昭和23 年に医療法は制定されたが、当時は医 師法、歯科医師法等の資格法と並び医療の供給体 制を施設面から規律する法律として、衛生法規の 根幹をなすものであった。昭和60 年に第1 次医 療改正として、量的整備がほぼ達成したのを受 け、医療資源の地域的偏在と医療施設の連携の 推進を目指した。平成4 年の第2 次医療法改正 では、高齢化の進展を背景に、主として長期療 養患者のための療養病床が整備された病床とし て療養型病床群を制度化し、高度の医療を提供す る病院として特定機能病院を制度化した。平成9 年の第3 次医療法改正では、近年の患者の健康 意識の高まり、患者の医療需要の多様化・高度化、 医療内容の専門化・複雑化に伴い、医療提供者が患者に対し医療の内容について十分説明を行う ことが求められたことを背景にインフォームド・ コンセントを主な改正内容とした。平成12 年第 4 次医療法改正では、病院の病床を療養病床と一 般病床に区分し、平成18 年には、少子高齢化の 進展、国民の意識の変化等、医療を取り巻く環 境の変化に対応するため、患者の視点に立った、 安全、安心で質が高く、効率的な医療サービス と目指すとした第5 次医療法改正があった。

質疑応答

主な意見は以下のとおりである。

(質問)

廃案になってから40 年以上も経っているのに、 どのような時代的背景を考えて今回日医が出して いるのかお聞きしたい。過去に廃案になった経緯 をもう一度考えていただき、医療崩壊が叫ばれて いるこの時期にあえて医療基本法を提起すること は、よほどうまく動かないと場合によっては患者 権利法のみになってしまうのではないか。

(回答)

この理由には社会的背景と法的背景があり、 個別法が乱立している中で、医療については揺 らぎのないものでなければならない。草案がな いから様々な矛盾した個別法が作られている。 これらを整合するために基本法をつくるのが 大きな柱である。もし、日医が基本法を作らな ければ、恐らく患者の権利法イコール医療基本 法というように成立することになってくると思 う。患者の権利を一方的に主張するような基本 法ができれば、医療提供者として不都合が起こ りうる。それこそ医療現場が混乱する。患者団 体と意思疎通を図り、委員会が提言した内容を 踏まえた法を作りあげていきたい。

(質問)

個別法が乱立している具体的な実例はあるのか。

(回答)

これまで医療法の改正が厚労省主導のもと行 われてきたことが医療現場に混乱を招いた。医 療法は立法の趣旨に沿ったものに限られるわけで、医療の基本的理念は基本法でやっていくべ きだと考えている。

(質問)

具体的提言の第13 条には最善の医療を提供 する義務とあるが、医療を提供する側と受ける 側が思う最善という言葉にずれが出てきてはい けない。書き方に関して工夫が必要ではないか。 第20 条に関しては、医療を受ける際のマナー のようで感じる。社会保障制度改革国民会議の ような場所において日医ではこのようなことに ついて議論している旨を発信していかなければ ならないと思う。

(回答)

まず、第13 条、20 条の書きぶりについては どんどん案を出していただきたい。国民会議の メンバーに日医から入っていないのは残念であ るが、今後はその会議のメンバーをお呼びして 意見交換していきたい。

(質問)

第13 条に関して、患者さんの権利を保障するという文言を前に持ってこないと患者から反 発がくると思う。その次に、仕組み、三番目に そのサービスを提供する医療機関のことを書い てはいかがか。順番を間違えると印象が違ってくると思う。

(回答)

検討する。

総 括

今村定臣常任理事

本日は、様々な角度からのご意見をいただき、 感謝申し上げる。この問題は医療提供者におい ても、大変重要な論点を多く含んでおり、着実 に議論を進めていく必要があることを改めて実 感した。その中でも、医療基本法を制定するこ とにより、医療を取り巻く様々な部分にどのよ うな効果が期待されるのか、また医療基本法の 元にはどのような個別法を制定すべきかなど、 諸問題については早々に検討を開始したいと思 っている。平成25 年は各地でシンポジウムが 増えていくと思うが、お邪魔をさせていただき 議論を重ねていきたいと考えている。

印象記

常任理事 稲田 隆司

今村常任理事は、別法の乱立を整合する為に医療基本法の制定を要すると述べられた。ちなみに、 医療関連法令は、医師法、歯科医師法、保健師助産師看護師法、薬剤師法、医療法、健康保険法、 薬事法、麻薬及び向精神薬取締法、死体解剖保存法、臓器移植法、感染症予防法、母体保護法、 精神保健福祉法、予防接種法、刑法、民法、個人情報保護法、消費者契約法、刑事訴訟法等々を 非常に多肢に渡っている。従ってこれらを統合する基本理念を示す親法としての医療基本法の制 定は必要であると考える。では、何故、今か。その背景として、最近、様々な団体から医療基本 法に関する制定の動きがあり、各々の立場からの骨子案が出されている現状がある。例えば、患 者の権利法をつくる会による医療基本法要綱案世話人会案、医療基本法三団体共同骨子(患者の 声を医療政策に反映させるあり方協議会、患者の権利法をつくる会、医療政策実践コミュニティー・ 医療基本法制定チーム)等である。その動きに対して、日医としても積極的に提案を行い、医療者、 患者側、各々に目配りした「『医療基本法』の制定に向けた具体的提言」を行ったところである。 立場は違えども、医療を構成するのは、医療人、患者、関係者であり、相方が充分に納得のいく 親法を制定しなければならない。その意味で、横倉会長の述べられた「拙速になる事なく着実に」 という御発言は納得のいくものであった。そして、どの団体の提案も国民皆保険制度の堅持、充 実を掲げているのであるから、TPP 情勢を注視し、医師会は医療基本法の制定と皆保険制度堅持、 TPP 反対の運動をセットに行っていく事が国民にわかり易いのではないかと感じた。福岡のシン ポジウムでも指摘されたように、医療基本法の制定がTPP に対する大きな障壁になると考える。

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